983話 楽しそうな彼女 ページ3
『〜〜!!!美味しいです!!』
口に入れれば栗の優しい甘さと香りが口の中で広がる。柔らかいスポンジ生地と滑らかなクリームは何方の邪魔をせず、上手く纏まったと思えばスッと口の中で溶けた
上品な味と香り、食感に彼女は再び目を輝かせる
「ふふっ、良いリアクションだな。喜んで貰えて嬉しいぞ」
彼女の笑顔を見ながら空いた手でカップを持ち、珈琲の飲んだ理鶯。デザートを食べていない筈なのに、彼女の幸せそうな表情を見れば胸が満たされる感覚がしていた
このままずっと録画をしていたい理鶯であったが、そろそろ恥ずかしがってしまう気がしたので静かにスマホをポケットに仕舞う
するとAはそれに気付き、スプーンでモンブランを掬うと理鶯の目の前に差し出した。そして無邪気な笑顔で口を開く
『はいっ、理鶯さん!』
彼の視界には食べ易い様に掬われたモンブラン、その奥には眩しい笑顔のA。
全く予想していなかったので、理鶯は咄嗟に反応が出来なかった。パチパチ、と瞬いて固まれば、彼女の眉は申し訳なさそうに垂れ下がる
『やっぱり甘いのダメでした……?』
「っ、いや、そういう訳では無い。おすそ分けをして貰えると思っていたかったのでな。是非頂こう」
そう微笑んだ後、パクリとモンブランを食べた理鶯。口の中には甘い味が広がる。好んでデザートは食べない理鶯であるが、こうして同じ味を共有するのも悪くない。そう感じていた
「うん、美味しいな」
『ですよね!それにこのデザート、珈琲を飲みながら食べるともっと美味しいんですよ!』
世紀の大発見だ、と言わんばかりの勢いで彼女は語るが、この珈琲は比較的スモーキーで甘いモンブランと合わさると爽やかな味になる相性の良い組み合わせだ。珈琲を嗜む理鶯からすれば当たり前の様な感覚だが、あまりにも純粋に教えてくれたので「本当だな」と保護者の様に和やかに微笑む
『むっ!このムースも美味しいですよ!はいっ理鶯さん!』
「ふふ、頂こう」
酷く甘い、と感じてしまうこの一時。この後の任務すら滲んでしまう程、彼にとって幸福な時間だった。口の中にあるムースを噛み締めながら目の前の彼女を目に焼きつける
「────よォ、珍しい所でイチャついてんじゃねぇか理鶯ォ……」
聞き慣れた、しかしこの場では予想外な声が2人の耳に触れる。その瞬間、2人きりの空間が破れた為に周りのザワザワとした喧騒が漸く聞こえてきた
声の正体は勿論、左馬刻だった
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時