997話 人の事を言えないヤクザ ページ17
銃兎と“いってらっしゃいのハグ”を交わしたAは、えへへ……と照れ笑いをしながら彼と別れる。朝から嫉妬心で不機嫌になってしまった左馬刻は、駐車場の車の中で出勤する彼の車を最後まで睨んで見送った
｢アイツ……ホント独占欲つーか我欲ヤバすぎだろうが｣
人の事言えないだろうが。
そんなツッコミをする人はいない。未だにAは嬉しさで破顔している最中だ
｢オイいつまでンなだらしねぇ顔してやがる｣
『痛っ、』
八つ当たりの如く助手席のAのおでこにデコピンをした左馬刻。あまりの理不尽さに、Aは涙目になりながら彼の肩をポカポカ叩き始める
『なぁんでデコピンするんですかぁ！』
女の、しかも本気ではない威力は左馬刻にダメージは全く与えられていない。可愛らしい痛みに対して左馬刻は、不敵な笑みを浮かべてエンジンを掛けた
｢おーおー、これから理鶯ンとこ行くから危ねぇぞ｣
『ひっどい！！左馬刻さんがそんな事するなら、今日の弁当にピーマンと人参入れとけば良かった…！！』
｢確実に俺様にダメージ与えて来ンじゃねぇよ｣
『ピーマンの肉詰め』
｢止めろ止めろ。あンなもん食い物じゃねぇ｣
『美味しいのに……』
軽い喧嘩をしながら理鶯の野営地に続く山道まで車を走らせる。出勤時間になってきたからか、途中の街道の交通量が増え単独事故や歩道で複数人が喧嘩していたりヨコハマの治安の悪さが垣間見えてしまった。幸いな事に2人の車には何も災いは来ず、無事目的地に到着
路肩に停めた車から降りたAは、一緒に降りて自身の隣に立った左馬刻へ苦笑いを向けた
『朝のヨコハマって刺激的ですね……』
｢何も起きねぇ日なんざねぇからなァ。特に朝と深夜は危険だ。その時間に出掛ける時は誰か一緒に連れてけ｣
『了解です！』
｢んじゃ行くぞ｣
『はい！』
ランチバックを2つ左手に持っていたA。当たり前のように空いた右手で左馬刻の左手を握った。そろそろ煙草でも吸おうかと無防備だった左手が突然柔らかい温かさに包まれ、声は出さずとも赤い目を大きく見開いた
片手が塞がれてしまえばとてもじゃないが煙草は吸えない。ヘビースモーカーな彼にとって死活問題な筈なのに、不思議と満たされた感覚がして思わず小さく鼻を鳴らした
｢はっ、“仲良しさん”はしてくれねぇのか？｣
『なっ！？そ、それは……！！』
｢冗談だ冗談。これから険しい山道だってのに、ンな事してたら怪我するわ｣
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作者名：刹那 | 作成日時：2023年9月29日 19時
