996話 警官へ届け物 ページ16
『───おはようございます!銃兎さん!』
「おはようございますAさん。左馬刻も、朝からすまないな」
「別に。俺様から言い出した事だ」
エントランスホールを通ってエレベーターで上り、廊下を少し歩いて銃兎の部屋に辿り着くと、2人に気付いた銃兎が扉を開けて出迎えた。出勤の準備は完全に整っていたので、いつものスーツ姿である
玄関で挨拶を済ませれば早速本題。Aはその場で持ってきた黒いランチバックを銃兎の前へ差し出した
『銃兎さん!これお弁当です!』
ニコニコと元気な声で渡された銃兎は、その可愛らしさで思わず微笑みを浮かべながら受け取る
「ふふ、ありがとうございます。美味しく頂きますね」
『あっ、そうそう。そのバック、今すぐ開けちゃダメですよ!昼ご飯の時に開けて下さいね!』
「……?分かりました」
するなと言われればしたくなるのが人間。彼女がいない時に見てもバレはしないだろうと悪い企みが頭に過ぎるが、チラリと何気無くAの隣に立っているヤクザを見ると、“見たら殺す”と言われている気がする程の眼力で睨まれていた
そういう所は律儀に守る男。彼が守るなら俺も守るか……。先程の企みは完全に消え失せた
『では朝から失礼しました!お仕事頑張って下さい!』
銃兎の時間を無駄にしてはいけない。目的を達成したAは銃兎に背を向けて帰ろうとした
すると─────
「Aさん、少し待って頂けますか?」
不意に背中から掛けられる銃兎の声。Aは声を出すよりも先に体が動き、彼の方を向いた
変わらず穏やかな微笑み。その顔の裏で何を考えているのか。Aはやっと『どうしました?』と尋ねる事が出来た
「折角ここまで来て下さったのに直ぐに帰るのは私としても寂しいです。ですがお互い仕事や用事があるのも事実。私も今から出勤しますからね」
そう言いながら銃兎はAに向けて両手を大きく広げた。回りくどすぎる言い方だが、もうその意図が伝わらないAでは無い
パァッ、と表情を明るくしたAは、尻尾を振る犬の様に銃兎の懐へ飛び付いた
『お仕事行ってらっしゃいです銃兎さんっ!!』
ギュゥと優しく、しかししっかりと受け止め抱き締めた銃兎に贈る言葉。胸に顔を埋めたAからは彼の表情は見えないが、一緒に来た左馬刻には完全に見えている
「テメェ……せこすぎだろうが。ムカつく面しやがって」
「ククッ、そう思うなら貴方も強請ればいいでしょう?」
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時