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994話 なんつースピードで入れてやがる ページ14

朝食が終われば、Aは左馬刻が介入する暇も与えないくらいにそそくさと綺麗に平らげた皿を片付ける。何故落ち着いていないのか理由は明白だが、構ってもらえないのは面白くない。ソファに座ってテレビを見ながら待つしかなくなった左馬刻の眉間は、険しく顰められていた


わっせ、わっせ、よいしょよいしょ。

彼女の口から零れている声が左馬刻の耳に全て拾われている。チラリと視線だけ向けると、ニヤケ顔を抑えようと必死なだらしない顔のAが、皿を拭いては食器棚に片付けていた

手伝おうとしても、そこまで進んでいるとする事が無い。早く終わりやがれ、と心の中で念じていると、皿を全て片付け終えた彼女は別の行動を取り始めた

冷蔵庫から取り出した3つの弁当箱と、何処に隠していたのか湯気が立った3つのスープジャーを天板の上に並べる。するとボウルも棚から取り出して、その中にスープジャーに入っていた液体を流し込んだ。どうやらお湯を入れて予熱していたらしい


完全にテレビの内容が入らなくなった左馬刻は彼女の行動に釘付けだ。そんな事に気付いていないAは、そのまま作業を続ける

蓋がされている小鍋が乗っているコンロに火をつけ、ソレが温まる間に弁当箱とセットで着いていた箸箱を、白色、黒色、迷彩柄のランチバックの中にそれぞれ入れた。最初から台本でもあるのかという程に段取りよく動く彼女。鼻歌も歌ってとてもご機嫌

拗ねていた左馬刻も彼女の鼻歌に釣られてか、和んだ表情に変わって見守る

鍋の蓋から蒸気が見え始めた頃、直ぐにAは火を止めて中身をスープジャーに入れて蓋をする。お玉から流れて見えたのは茶色の液体。左馬刻は味噌汁だな、と予想した

もうそろそろ終わりそうだな……。と意識がぼんやりした時、スープジャーもランチバックに入れたAは、最後に目にも留まらぬ速さで何かを入れてチャックを閉めた


「……あ?」


思わず零れた声。何故態々そんなスピードで入れたのか。表情が険しくなるのを感じながら見ていると、不意に作業を終えたAと視線がぶつかった


『あ!見てましたね!』

「いや最後は見えてねぇよ。なんつースピードで入れてやがる」

『これは開けた時のお楽しみ!ってヤツです!ちゃんと昼ご飯の時に開けてくださいよ!』


屈託の無い笑顔で言われてしまえば、誰からの指図も受けたくない左馬刻ですら従わざるを得ない。不満気にだがちゃんと「おぅ……」と短く返したのであった

995話 何気に入り方知らねェんだよな……→←993話 味見と言う名のつまみ食い



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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時

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