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992話 いつも通りじゃない若頭の朝 ページ12

─────次の日。




左馬刻はスゥ…と瞼を開ける。特に耳障りな着信も無く、窓から差し込む太陽の光が瞼を焦がした訳でも無い

スマホで時間を確認すれば朝の6時半と表示していた。寝る前に抱き締めていた筈の感触は失い、隣を見てももぬけの殻で彼女の残り香と冷めかけの温もりだけが感じれる


「アイツ……もう起きてンのか……」


ゆっくりと体を起こし背を伸ばす。静まり返った寝室は、リビングにあるテレビの声が僅かに届いていた。どうやらAはリビングでテレビを見ているらしい

盛大な欠伸をしながら立ち上がる左馬刻は、零れそうだった欠伸の涙を拭いリビングへと足を進ませた









『───あっ、おはようございます左馬刻さん!今日は良い天気ですよ!お弁当日和ですっ!』

「おー……。朝から元気だな……」

『むふふんっ、そりゃそうですよ!私にとっては勝負の日ですからね!』


左馬刻にとって朝起きて直ぐは瞼が重く体がダルイ。そして眠い。ぼんやりする頭で短い挨拶をすれば、ハキハキとテンションの高い正反対の声が返ってくる

目を擦り何とかいつも通りに目を開くと、Aは既にパジャマから私服に着替えソファに座っていた。テレビは点いており、朝早いというのもあってニュース番組が流れている

覚醒し始めた体は、次第にリビングに漂う美味しそうな匂いを感じ取る。この匂いとAが私服で活発的という事は弁当作りは既に終わったらしい


「ふぁ……ん…。俺様顔洗ってくるわ…」

「了解です!朝ご飯準備しておきますね!」


目を覚ます為に彼女にそう言えば、ヒョイッと軽い身のこなしでソファから立ち上がって左馬刻の横を通り過ぎキッチンへ向かった。寝ぼけた視界でもAの抑えきれない笑顔が分かり、左馬刻は表情を緩ませる

ただ弁当作っただけだろうが……。嬉しそうにしやがってよ……
───不意に左馬刻は、妹が初めて料理を1人で作った時を思い出す。その時の妹の顔とAの顔は似ていた。自身が作った料理をきっと美味しいと言ってくれるという期待や、1人で作れた達成感。健気で可愛らしい表情だ


早く話を聞きたい。左馬刻の足はぼーっとする頭とは真逆に素早く動いて洗面所に着いた


鏡に映るのはヤクザの若頭なのかと疑われる程に穏やかな自身の顔。いつも寄っている眉間の皺はなく、無意識に上がっている口角。熟睡故の微睡んだ目は細められ、自嘲を含ませた小さな息を吐いた


「ハッ、なんつーツラしてんだよ俺は……」

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作者名:刹那 | 作成日時:2023年9月29日 19時

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