979話 それは紛れもない、本当の姿だ。 ページ49
理鶯の説明のおかげで大体の料理が理解出来たA。これから食べてみたいモノを考えるぞ、と言うところで理鶯の名前を呼ぶ声が聞こえた
どうやらいつの間にか順番が進み彼等の番が回ってきたらしい。メニュー表をスタンドに返し、店員の案内のままに窓側のテーブル席へ座った
そこは4人用程の大きさのテーブルとソファ。何方も落ち着いた焦げ茶色で、ツヤツヤ輝くテーブルの上にはメニュー表が綺麗に広げられており、それらを挟む様にフカフカなソファが向かい合っている
この店は1階で座る場所が窓側という事は通行人の視界の中に入ってしまうが、今の時間は太陽の光が差し込む為、木製のブラインドが優しく遮っており、あのMTCの1人が店内に居るとは中々気付かれない。といっても店内で相変わらず周りの視線を集めている。しかし中だけなら理鶯にとって予想の範囲内。自身若しくは彼女に敵意を見せていない時点で気にする必要が無い
一方Aはまだ料理を決められていないのでそれどころではなく、直ぐにメニューと険しく睨めっこ
そんな様子が可笑しくて理鶯は常に微笑みを浮かべている。気分は小さな子供を初めての店に連れて来た親だ。全部の仕草が新鮮で微笑ましい
『あ、あの……!理鶯さんってもしかして既に決まってます?』
「あぁそうだな。だからと言って貴女が焦る事は無い。じっくりと見て自身が気になったモノを選ぶといい。その間小官は貴女の表情を見て楽しんでおこう」
『楽しみ方おかしくないですか!?そんな変な顔してました!?』
「変な顔では無い。可愛らしい顔だ」
『なんか馬鹿にされてる気分!!』
左馬刻や銃兎と比べ、理鶯はAと2人きりでいる時間が長い。しかし今のような過ごし方は初めてだ。柄にも無く理鶯は胸が高鳴りじーっと彼女を見続けてしまう
『理鶯さぁん……そんなに見られると緊張して集中出来ませぇん……』
「ふふっ、すまない。難しい事かもしれないが、気にしないでくれ」
『気にしますってぇ……!!』
涙目なA。無邪気な顔がとても愛おしくて、2人きりならば頭を撫でていただろうと理鶯は目を細める
チラチラと理鶯の様子を窺いながら悩む彼女。何処からどうみても紛い物では無い純粋な表情、仕草だ。───そう、彼女の本心だ。
理鶯の頭の中で三郎の言葉が過ぎる。
──“Aさんってさ、沢山いるの?”──
「っ………」
細められた蒼い瞳は段々と悲しみを帯びていく事に、Aは気付いていない
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時