977話 食べているところを見てみたい ページ47
マイペースな理鶯に押し負けたAは、ほぼ彼と手を繋いだ状態でヨコハマの街を歩いた。袋を持っている、私は袋を持っている、と言い聞かせて
歩く事数分。目的のスーパーであと数メートルの所で理鶯はピタリと歩くのを止めた
『……?理鶯さん?』
不自然に止まった彼にAは思わず名前を呼び、顔を覗き込む。理鶯の顔は丁度彼等の真横にあるフランス料理店の看板に向けられていた
先程まで意地悪に話を無視し続けていた彼にしては、純粋な瞳で何かを観察している。何か気になる事でもあるのかと、再びAは名前を呼んだ
『理鶯さん?もしかしてお腹減ったんですか?』
時間的にもそろそろお腹が減る頃だ。何方も腹の虫はなってないがそうなのだろうと彼女が尋ねれば、理鶯は店を見たまま口を開かせた
「この前ラジオで、有名なフランス料理店がヨコハマにあると言っていた。名前も一致しているので恐らくここなのだろう、と」
これは珍しい、街の店に興味を抱いていたとは。Aは思わず目を見開かせた。すると彼の顔が此方に振り返り、優しく細められた蒼い双眸と視線が交わった
「この店に貴女が食べているところを見てみたいデザートがあるのだ。昼ご飯はここで食べないか?」
『……ん?』
一瞬頭が混乱する事を言われたAは理解するまで間を空けて疑問符を飛ばす。“食べたい”では無く“食べるところを見てみたい”。珍しい言い方な気がするが、断る理由がないのでAは戸惑いながら首を縦に振る
するとパァッと花のオーラを飛ばした理鶯が「では行こう」と彼女の手を引いて店の中へと入っていった
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店に入れば流石有名店なのだろう、入口通って直ぐの待合スペースに大勢の客が待っていた。椅子は全て埋まり、あぶれた何人かが立って待っている。ザワザワと呼ばれるまで時間潰しに雑談をしていた客達は、新たに入店した理鶯達の姿を見るなり空気がピリッとした
それは案内をする為にやってきた店員さんも同じ。あのMTCの1人が突然現れたのだから、全身が金縛りにあったかのように強ばらせていた
「い、いらっしゃいませ……!!只今満席なのでこちらの紙に名前と人数をご記入下さい……っ!!」
「了解した」
緊張されていると知っているのか、それとも反応に慣れているのか、淡々と答えた理鶯は、スタンドに置かれたウェイティングリストに“毒島”と書いて、比較的人が少ないスペースにAと歩いて行った
978話 料理知識豊富な軍人。→←976話 毒に溺れる軍人。
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時