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974話 非日常だったが、日常になり得た ページ44

一瞬だったとはいえガラの悪い男達に絡まれた筈の2人なのだが、恰も何も無かった様に買い物を再開した

調理器具や食器等が豊富に揃うこの専門店はとても広く、目的の物の場所を店員に聞かないと直ぐに見つけられない。しかし初めての店を回ってみたい、2人きりのショッピング、という事もあり何方もその案を出さずのんびりと探し回っていた。

限られた手掛かりは、商品棚と商品棚の間の天井からぶら下がる看板。番号と置かれた商品のジャンルが書かれており、現在2人がいる場所は鋏や包丁等が置かれたブース

その中でAが真剣な面持ちで睨んでいるのはキッチン鋏だった


「A、キッチン鋏は左馬刻の家にあると思うが何か買う理由があるのか?」


あまりにも真剣にハサミ達を手に取って見比べているので思わず理鶯が尋ねる。すると彼女はピクッ、と反応して分かり易い程に狼狽えた


『あっ、いや、その、わわわ私って皆さんと違って手の大きさが違うので……っ!!』


あははは、と誤魔化す彼女だが、今まで見比べていた鋏はどれも刃の部分が細かったりカーブが掛かっていたりと少し特殊な形をしていた。気になるあまり観察してしまった料理好きの理鶯は彼女の計画を察してしまい、バレないように笑みを作った


「ふっ、そうか。確かに小官達は貴女と比べて大きいな。ならばじっくりと自分に合う鋏を見付けるといい。調理器具1つでも妥協してしまえば料理のクオリティに関わるからな」

『っ、はいっ!』


笑顔で返事をしたAは再び鋏と向き合う。理鶯の視界には、次々と鋏を手に取っては活き活きとした目で見定め、これじゃないなと棚に戻す彼女の横姿が映っている

本来軍人として生き続けた彼にとって、この胸が温まる光景は非日常的なモノだ。今までは血生臭い戦場か、殺伐とした潜伏場所か、孤独で静かだった野営地か。

後悔はしていない。己の無力さに絶望した事は何度もあった。だが後悔だけはしなかった。どれ程手を汚したとしても、どれ程犠牲にしても、平和の為に、国民の為に仲間達と共に命を懸けた。それだけは誇れるからだ


『よしっ!これにしよう!』


ガサッ、とAが持っていた買い物カゴに気に入った鋏が入れられる。そしてスキップをしながら次の場所へと向かっていった


その後ろ姿をぼんやりと眺める理鶯


───自分にとっては非日常だったモノでも、自分達が戦ってきたからこそ彼女にとって日常になり得た。そう強く感じ、彼はゆっくりと後を追った

975話 変なところで頑固な2人の攻防。→←973話 イラつく軍人。



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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時

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