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968話 この時だけはクソッタレな世の中を忘れられる ページ38

『──そうなんですよ〜!私の蹴ったボールが二郎さんのお腹にめり込んで〜!絶対アレ痛かったですよぉ……!!』

「クフフッ、それはそれは。そんな場面見たかったですねぇ」

『大丈夫って言ってくれましたけど、大丈夫かなぁ……青くなってないですかね……?』

「育ち盛りですし大丈夫じゃないですか?」

『雑に答えてません?』

「気の所為でしょう?」


彼女達の会話は寝室に入り布団に包まれても続いていた。お互い見合わせ抱き締め合っており、距離感がバグっているのは銃兎の思惑通り。「折角ですし、貴女も其方の方が安心するでしょう?」と誘導したのだ。
今までは理鶯がいたり、そこに左馬刻が加わったりと2人きりで寝れなかった。ここぞとばかりに堪能したい欲深き兎だ

一方Aは段々と酷い遠慮が薄れてきた事に加え、スキンシップが激しい理鶯を始めMTCにそもそもの距離感をバグらされた結果、嬉しそうに銃兎を抱き締めた

彼女の背中に手を回した銃兎含め2人共まだ睡魔が来ていないので、その状態で会話が続く


Aは基本銃兎の胸元に顔を埋めている様な状態なので少し声が籠っているが、自分達しかいない静寂な空間だと鮮明に聞こえる

伝えきれない出来事を一生懸命言葉に落とし込み声に出すAは、まるで学校の出来事を親に報告する子供。そんな姿を過去の自分と重ねた銃兎の心臓が切なく締め付けられる


思わず回した手がぽんぽん、と安らぐリズムに乗って彼女の背中を叩く。それが作用したのか不明だが、ハキハキと喋っていたAの声が段々と微睡んでくる


『んー…でも……結構本気の蹴りだったからなぁ……』

「貴女は理鶯に鍛えられてますからねぇ。でも二郎君もきっと日々の練習で鍛えてますよ」

『あしたあたりに……でんわ……』

「しなくても良いんじゃないですか?何かあったら電話が掛かってくるでしょうし」

『むむぅ……でもぉ……』

「まぁまぁ、そんな事は気にせず休んでは如何です?ずっと貴女は元気に動いているんですから、寝る時くらい悩まなくても」

『んぅ……』


何かを訴えようとしたAの声は途中から寝息に変わった。すや……すや……とゆっくり呼吸する度に擽ったい息が胸元に掛かる。布団だけでは得られない芯に届く温もり。彼女を抱き締める事で不自由になっている筈なのに、銃兎の心は充分に満たされている


「おやすみなさい、Aさん」


この時だけは、クソッタレな世の中を忘れられる銃兎だった

969話 キッチンで料理をする練習ですっ!→←967話 蹴り慣れてはいる



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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時

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