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961話 もっと喜んでもらえるように──── ページ31

「何やら楽しそうに喋っていますね」


『あっ銃兎さん!銃兎さんは弁当に何が入ってると嬉しいですか!?』


声を掛ければ直ぐに反応したA。目を輝かせ、子供のように好みを聞いてくる姿はとても愛らしい。優しい目で彼女を見下ろした銃兎は、「そうですねぇ……」と考えながらソファに寛ぐ彼等の隣に身を深く預け、彼女と同じ目線の高さになった


「手作り弁当、というのは馴染みがありませんし、何がいいかと言われれば悩みますねぇ……」


────ふと銃兎は、昔母に作ってもらった弁当を思い出す。小さい頃、運動会か遠足があった時にしか食べれなかった特別な物。仕事で忙しく強請る事は出来なかったが、その時だけは我儘が許された

少し感傷に浸り目を細くすれば、次第に視界が歪む。彼等の前ではそんな顔は出来ない。直ぐに微笑みを作り、味はもう忘れたが1番印象に残っていたモノを口にした


「………卵焼き、ですかね……」

『卵焼き……。成程!!了解です!!』


意外だったのかAは目を丸くしてオウム返しをした。少し間を作ると料理の名称だと理解した彼女は、快く受け入れ敬礼で応える。勿論、意外だと思ったのは彼女だけじゃない


「へぇ、随分と庶民的なリクエストだな」

「そうですね。でも弁当といえば卵焼きでしょう?」

「そうなのか……ふむ、ならば小官もリクエストしたい」

「俺も頼むわ」

『分かりました!!───あっ!卵焼きって専用のフライパンじゃないと難しいですよね!?』

「任せろ、そンぐらいは俺様の家にある」

『す、スゲェ……!!』

「ふふっ、それなら問題ありませんね。よろしくお願いします」

『はい!!あっそうだ!今丁度卵焼きをフワフワにするにはマヨネーズを使うと良いって言ってましたよ!試していいですかね!?』


Aはスマホを取り出し、何かを見ながら銃兎へ意気軒昂と語る。どうやらそのスマホにはテレビで流れた裏技等が纏められているらしい

そんな所が健気だと3人は表情を緩ませる。そしてそれぞれの言葉で問題ないと彼女に伝える


『むふふ、了解です!!美味しい弁当になる様に頑張りますね!!』


────Aはこう思った。
役に立とうとするな、とは言われたが、やはり誰かの為に何かが出来る事を幸せに感じる。平凡なモノを作り、それを届ける。日常的な事が出来るのだ

なんも変哲もない、1つの弁当で3人は喜んでくれる。なら、もっと喜んでもらえるようにしなければ(・・・・・)

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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時

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