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959話 男が描くシナリオから逸脱し始めた彼等 ページ29

『っ……?』

「どうかしたかA?」

『あぁいえ、ただの風だったみたいです』

「そうか?」


Aは一瞬だけ気配を感じ取った。しかし周りを見渡しても人影なく、ただ風が質量を持ち誤認させたのだと気にせず首を傾げた理鶯に笑い掛ける

気になった理鶯が神経を研ぎ澄ましてもやはり気配は無い。だが警戒は怠らず、誰が来ても直ぐに護れる様にAの手を握り傍に近寄らせた









────理鶯が気配を感じ取れなかったのも無理も無い。その時は既に、彼等を見ていた1人の男が踵を返してその場を去っていたからだ

イケブクロの静かになり始めた街並み。チラホラとライトを点けている車が、その男のサングラスとネックレスをキラリと光輝かせる

そんな中で優雅に煙草に火をつけた男は、ふぅ……と空に紫煙を吐いてニヤリと不敵な笑みを浮かべた


「まさか俺の予定よりも早くにアイツらが和解の兆しを見せるとはなァ……。流石A、なのかねぇ……」


予定を狂わせたと言う割には何処か嬉しそうな声。サングラスの奥に見えるオッドアイも穏やかで優しく細められていた


「さぁて……アイツらが完全に和解しちまったら中王区が黙ってねぇだろうな……。いつまで俺の誤魔化しが効くことやら……。────まぁ今はそんな事よりも、だな……」


男はポケットからスマホを取り出すと、1枚の写真を画面に表示させた。それは、A達が探し続けている“ハカセ”が、人がごった返すヨコハマの中華街の中に紛れて歩いているモノ


何故彼がその写真を持っているのか。そして何故“そんな事よりも”と発言したのか。────それを尋ねる人物は残念だが居ない









男が完全にイケブクロの街に消えた頃、左馬刻達は一郎達と別れ、近くのモールで2人分の弁当箱を買い食事を済ますと銃兎の家に向かっていた。────というのも、一応Aは風邪の治りたてホヤホヤである。流石にいつも通り理鶯のベースで過ごすのは危険だ。そう判断しての事だが、じゃあ銃兎頼むと言って自分の家へ帰る左馬刻と理鶯では無い


少しの間邪魔をするぞ、という拒否権を奪った言葉で決めたのだった


しかも車は銃兎と左馬刻、2台ある為に銃兎は1人だけ自身の車に乗り、左馬刻は理鶯とAを自身の車に乗せて向かった



『あ、あの……銃兎さん怒ってませんかね……?』

「大丈夫だろ。つーか今日は2人で寝ンだから文句言わせねぇ」

「小官も同意見だ」

『うわぁ……』

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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時

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