958話 交わる赤と青 ページ28
迫力を無くしツッコミとなった若頭と天然ボケをし続けるAの漫才を見ていれば、あっという間に彼等の家に着いていた。律儀に着いてはいさようなら、では無く態々全員玄関まで送るMTCとAに一郎達は“マジかよ……”と心の中で呟いた
玄関の扉まで歩き一郎達が立ち止まれば、後ろで着いて行ってた左馬刻が僅かにこくっ、と喉仏を動かす。誤魔化す為か、直ぐに溜息を吐き頭を乱雑に掻きながら一郎の名前を呼んだ
「あー、一郎…」
「っ……な、何だ?」
交わらない筈だった
そんな彼はこういう時にはちゃんと“偽善者”や“クソダボ”の様な呼び方では無く純粋に名を呼ぶ
ズルい……と昔の彼と重ねてしまった一郎は、一瞬反応に遅れ返事。すると左馬刻は考えるように目を伏せ、少しの間沈黙。そして真っ直ぐ射抜くように一郎を見やれば、口をゆっくりと開かせた
「………悪くねぇ1日だったわ。ありがとよ……」
素っ気ないが、今の彼では最上級な言葉だ。その証拠に周りの銃兎や理鶯、Aは左馬刻に気付かれないように表情を綻ばせ、嬉しさを滲み出していた
あの左馬刻が最後自分に礼を言ったのだ、此方も何か言わないと。──一郎はそう感じ、左馬刻を真っ直ぐ見て緊張で唾を飲み込んだ後にぎこちなく口を動かした
「そ…それを言うなら俺も……。サッカー……楽しかったぜ……」
後ろで弟達が息を吸う音が聞こえた。まさか兄が左馬刻に対して礼を言うなんて、と言わんばかりに。しかし次に聞こえたのは笑みを零す優しい音。彼等も2人の仲が良くなっていくのを喜んでいるようだ
「俺らは帰るわ。また機会があンならコイツの事頼む」
「分かった…。き、気を付けて帰ってくれ」
「おう……」
まだ距離感を掴めていない。だけど前進はしている。気恥しい為に顔を赤くする二人を見てAは感動が胸の中で膨らみ、満面の笑みを浮かべた
少しずつ。少しずつ昔の彼らに戻っていく。その仲を良しとしなかった中王区に破壊された関係を、自由を求めて外へ逃げた1人の少女が戻すきっかけを作り出した
それがとある男の予定よりも遥かに早いのは、彼女が持つカリスマ性のおかげか、それとも────。
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時