956話 昔も似た事を言われていた ページ26
漸く同調してくれた彼女に三郎は顔には出さないが安堵していた。閉鎖空間で長年生きてきた人物の考えなんてサビの様に頑固。それを何とか自分の言葉で落とせたのだから
｢後さ、自分がこうしてたら変わってたかも、なんて考え傲慢だから｣
『ご、傲慢！？ですか！？』
｢勉強とかの個人だけで完結する話なら別だけど、一瞬でも誰かと関わったのなら、自分たった1人が何がするだけで良くなるなんて傲慢でしょ？1人の人間にそんな影響力無いよ｣
『な、成程……？』
｢終わった話を持ってきてタラレバ言うなんて不毛だし、そもそも仮に過去を変えられたとして今より良くなるなんて分からない。そんな事にメンタル削るくらいなら、今の状況を広い視野で見て、歩幅が小さくても前に進む方が有意義じゃない？二郎もそう思うでしょ？｣
｢そーだな！もし俺の力不足でサッカーの試合で負けたとしても、相手は俺以上に努力してたって事だろ？なら、俺はもっともーっと努力する！！そんで次に勝つ！！｣
｢そういう事。分かった？｣
『───ッ！！！』
────ここで突然Aの頭の中に懐かしい記憶が蘇った。それはいつの時かは分からない。流れる映像もぼやけている。しかし“監視役”との会話だったのは確か
“なぁA、お前さんは暗く考え過ぎだ。相手に八つ当たりしねぇのは良い事だが、抱え込み過ぎると身を滅ぼす。偶にはお前のせいだって理不尽に怒っちまえよ。それか、もう一度考えて今までAのおかげで出来た事を探せ。自分の所為だ、何も出来てない、そんな事を考えるのに時間を使うんじゃねぇよ”
“ダーッハハハッ、悪ぃな。難しかったかァ？お前さんがあまりにも良い子過ぎてそこら辺の奴らと同じように喋っちまったな”
トリガーは三郎の言葉らしい。似た事を過去に言われていた様だ。昔から自分は変わってないと、Aは懐かしさで溢れそうな涙を誤魔化す様に苦笑いを浮かべた
『ふっ……三郎さん二郎さん、ありがとうございます。私……ネガティブ過ぎましたね……』
穏やかに、純粋な微笑みで、諭してくれた三郎と二郎に礼を述べたA。今まで見慣れていた子供のような無邪気なモノではなく、成長した清廉な女性の笑み。あまりの美麗さに三郎と二郎は顔を赤くして緊張してしまった
｢あ、いや、そんな礼なんて大袈裟だよ！！｣
｢三郎なら分かるけど、俺何も大した事言ってねぇし！？｣
｢きゅ、急になんだよもう！調子狂うじゃないか！｣
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作者名：刹那 | 作成日時：2023年7月29日 8時
