948話 否定すると思ってしまってな ページ18
読めない軍人なのは前から変わりないが、それでも自分達に躊躇無く感謝してくるのは想定外で三郎は顔を赤くして狼狽える。それが面白かったようで理鶯はクスクスと笑い、口を開いた
「喧嘩した時はどうなるかと心配したが、無事和解し、更には左馬刻が山田一郎と遊ぶようにさせるとは……。Aは不思議な力があるようだ」
「そう、だね。僕も一兄が左馬刻とあんな風にサッカーするなんて夢にも思わなかったよ」
サァ……と涼しい風が彼らの肌を撫でる。火照った肌には気持ちいい風だが、少し乾いた──いや、何処か冷たい空気に変わった瞬間でもあった
微笑みから一変。三郎は目を伏せ考え込む
その様子に理鶯は彼へ向ける視線を鋭くし、背もたれへ深く身を預けた。これから聞かれる事を察し、覚悟を決めるように
三郎は真剣な面持ちで理鶯を見やる。そこに中学生の幼さは無く、作戦会議をしている軍人とほぼ同等な雰囲気だと理鶯は感じ取った
「あ、あのさ……。1番アンタがAさんと関わってると思うから聞くんだけど……」
色の異なる双眸が細められる
「Aさん、ってさ……」
ゆっくりと言葉を選ぶように口が開かれる。否定して欲しい、だが肯定される可能性もある。彼の葛藤が滲み出た声だった
「────
再び風が吹く。
今度は悲鳴のように強く、耳に当たるモノだった。自然界が彼女の疑惑を隠そうと、必死に吹いたようにも思えた
理鶯は瞼を閉じる。焦りも、怒りも、諦めも無い。その感情は三郎では読み取れない。ただ願っていた
ゆっくりと下ろされていた瞼が開く。蒼き双眸は、楽しく笑う彼女を映していた
「………それは、小官にも答える事が出来ない」
否定でも肯定でも無い言葉だ。しかし肯定にしか受け取れない。三郎は深く溜息を吐き、彼女達の方へ顔を向けた
「出来ないって何?それって確定って言ってる様なものじゃん」
「小官が得たのは過去の情報。今の彼女はそうだと裏付けるモノがない」
「左馬刻と入間は知ってるの?」
「いや……話していない」
「何で?そういう重要な話はしておいた方が良いんじゃないの?」
「そう、なのだが……」
ここで初めて理鶯が言葉を詰まらせた。淡々とする彼には珍しい心の動揺。だからこそ、どんなに彼が思い詰めていたか伝わってしまう
「これを誰かに話せば………───今の彼女を否定すると思ってしまってな」
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時