931話 中々入らない!! ページ1
左馬刻に撮られていると知らないAは、あれから何度もトライをした。最初こそ二郎にぶつけてしまったと言うトラウマで中々ボールがゴールへ飛んでいかない。しかし段々と力加減を理解してきた彼女は、数をこなせばこなす程上達し、惜しいところまでいっていた
『はぁっはぁっ……!!なっ、中々入らない!!!』
Aはもどかしさに思わず声を上げ地団駄を踏む。激しく上下する肩と滴る大粒の汗は、どれだけ彼女が真剣なのかを物語っている
「でももう少しで入りそうだよ。もしかすると体力が無くなって狙いにくくなってるのかもしれないし、一旦休憩したら?」
悔しがるAの肩に手を優しく置き励ます三郎。素っ気ない言い方なのは思春期特有のモノだ。これが精一杯の彼の優しさ表現である
そんな可愛らしい弟の一面を近くで見る兄は、ニヤケを抑えた為に口角がピクピクと動いてるが、そのまま頷き彼の言葉に続いた
「そうだな。結構蹴り続けたし、何だか俺も挑戦したくなってきたぜ」
「おっ!!兄ちゃんもやってみる!?」
「おう!三郎も一緒にシュート練習するぞ!」
「えっ!?い、一兄!?僕はえ、遠慮したいんですが……」
「ダメだ。頭で解決するのはお前の得意分野だし、俺らにはねぇ武器だ。だが体力が無いんじゃあいざと言う時に行動出来ねぇだろ?それに体力があれば手段も増えて、より色んな戦略が練れるんじゃないか?」
「ゔっ……反論の余地が無い……」
「三郎ぉー、お前この前リフティング出来たじゃねぇか。ダイレクトシュートなんて簡単だろ」
「煩いな二郎!!リフティングとダイレクトシュートなんて手段も原理も何もかもが違う!!簡単って言うな!」
絶対的な兄に言われ逃げ道が絶たれた三郎。リフティングはその場で動き、片足だけでもリフティングが成り立つモノだ。複数回だと難しいが、少しなら出来る。だからこそ前回は嫌がらずに受け入れ挑戦はした
しかし今回は違う。やった事がなく、更には体全体を大きく動かさないと成り立たないダイレクトシュート。他者が蹴ったボールのタイミングを見計らう、ボールの中心に足の甲を当てる、ゴールに向けて飛ばす。この3つのタスクを瞬時にこなしていくのは、運動が苦手な三郎にとって難題だ
プライドが高い彼にとって、他者に失敗を見せる事は自身の名誉を傷つける事と同義。故に認められない
「やるぞ三郎」
だが尊敬すべき兄に強制されれば断れず、不承不承ながら頷いたのであった
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年7月29日 8時