906話 これは譲りたくない ページ26
「ふっ、はははっ。ンだよ……ホントお前は頑固だなァ……」
『それはこっちのセリフですっ』
穏やかな表情の2人は互いに優しく相手の片頬に触れた。まるで近くにいる事を確認するように
ほんのり熱くて涙の跡が残っている彼女と、少し冷えていてカサついた肌の彼。2人共自分の事を棚に上げて“体調崩してるクセに”なんて考えていた
再び静寂が訪れる部屋。心地よい空気感ではあったが、最初に勇気を出して声を発したのはAだった
『左馬刻さん……ありがとうございます。こんなに体を痛めてまで私の事を思ってくれて……』
「何言ってやがる。俺がやりたくてやった事だわ」
『……私、どんなに左馬刻さんに怒られたり殴られても傍に居たいんです。例え左馬刻さんが自分の事を許せなくても、一緒に居たい……』
「っ………A…」
『でも、一郎さんとも友達でいたいんです。我儘ですけど、これも譲れないです』
彼の頬に触れていた手が静かに離れていく。ただ離れるだけなのに、左馬刻にとってはこのまま落ちていく感覚がして思わず力強く掴んでしまった
パチン、と乾いた音が鳴る
Aも、鳴らした本人である左馬刻も目を見開き驚いていた
少し間を空けると左馬刻は苦虫を噛み潰したような顔となり、心の中で葛藤を繰り広げた。自分もこれだけは折れたくない。しかし目の前の人物も折れる気配が無い。信じられない。護りたい。────もう、失いたくない。
暫く静かだった左馬刻。感情がぐちゃぐちゃになりながらポツポツと単語を繋げるように口を動かした
「っ……一郎は……中王区と繋がってる」
『っ!?い、一郎さんが……!?』
Aは乱数から真相を聞いている。が、どう互いを認識し対立したかまでは聞いていなかった。左馬刻の口から迷いを感じさせない声でそう言われ、Aは驚愕の声を上げた
真剣な紅はずっとAを見つめ、掴んでいる手は力を込められる
「俺の妹はアイツに要らねぇ事を吹き込まれて俺の下から離れた。中王区には自分の理想がある、ってな……」
妹に拒絶された瞬間を思い出す
信じてた弟分に裏切られ、命より大切な妹を奪われた。
止めろ、ボタンを押せば弟が……。そう嘆願していたクセに今はどうか。仲良く3人で暮らしているではないか。
俺は戦いに勝った。なのに実際はアイツの一人勝ち。
アイツさえいなければ妹が中王区に行かなかった。アイツさえ───
『では本当に繋がってるか、私が確かめます……!!』
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刹那(プロフ) - クリームソーダ好きさん» クリームソーダ好きさん!応援ありがとうございます!これからも楽しんで頂けるよう頑張ります! (7月8日 17時) (レス) id: 474b3cc025 (このIDを非表示/違反報告)
クリームソーダ好き - とっても面白いです、!応援しています! (7月8日 11時) (レス) @page39 id: 4c76633c5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:刹那 | 作成日時:2023年6月4日 10時