883話 俺にはそれしかない ページ3
｢───今のテメェじゃお荷物なんだよ……。ただでさえデケェ取り引きがされるんだ、怒りに任せて暴れられると面倒なんだよ……！！｣
｢ンだと……ッ！！？｣
反抗しようと踏まれた右手に力を入れるが、ミシミシと音を立て無駄な痛みを生むだけに終わった。このままでは死者が出てしまう空気。すると今まで沈黙を貫いていた男が立ち上がり、2人の間に入った
｢………不毛な争いを止めろ。2人共頭を冷やせ｣
重く響く声。蒼い瞳はゆっくりと銃兎、左馬刻の順番に向けられる。怒りも悲しみも感じられない無の目。腹の底が全く読み取れない2人は、彼のプレッシャーに押されて漸く冷静になれた
｢銃兎、貴殿の言い分は理解出来るが必要以上に煽る意味など無いだろう？｣
｢っ……失礼しました。私とした事が我を見失っていました｣
｢左馬刻、今の貴殿は体力を消耗している。予選までに何かあれば我々の目的が達成出来ないだろう？｣
｢………チッ、｣
理鶯に諭された2人は落ち着きを取り戻した。銃兎は足を退け、左馬刻は立ち上がり元々座っていた椅子へ戻る
乱れたスーツを直しながら銃兎は左馬刻を見た。納得がいってなさそうだが、もう暴力を振るう様子はない。鞘に収められた剣はただ静かに虚空を見つめていた
｢……別に左馬刻が態々行かなくても俺らで何とか出来る。八つ当たりしてぇのかもしれねぇが、お前は無理し過ぎてんだよ。休んでろ｣
そう言葉を掛けると背中を見せ、扉まで進んでいく。理鶯も威勢を失ったリーダーを一瞥した後に彼の後を着いて行った
｢……………俺にはそれしかねェんだよ……ッ｣
静かな空間に零された本心。2人に自白する訳ではなく、ただ抑えてたモノが落ちただけの弱々しい響きだったが、この静寂の世界では彼らの耳に触れるには充分だ
扉を開け部屋を出ようとしていた2人もこれに止まり、振り返る
虚空を見ていた左馬刻は自身の右手を見つめていたが、もう何も言わない。元々色白な彼が感情も勢いも奪われれば、死者の様な不気味さを纏っている
初めて見る彼に対する正解の行動が見つからない銃兎と理鶯は、顔を背け部屋を出た
パタン……と悲しげに鳴る扉の閉まる音。それは左馬刻が自身の心を蓋するような音にも聞こえる
｢………結局俺は……アイツと同じなんだからよ……｣
見つめ続けていた右手は、そのまま前髪を掴み呟く。溢れる憎しみを噛み締めながら漏れた声は震え、静寂に飲み込まれる
仲間の足音はもう聞こえない。
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刹那(プロフ) - クリームソーダ好きさん» クリームソーダ好きさん！応援ありがとうございます！これからも楽しんで頂けるよう頑張ります！ (7月8日 17時) (
レス) id: 474b3cc025 (このIDを非表示/違反報告)
クリームソーダ好き - とっても面白いです、！応援しています！ (7月8日 11時) (レス) @page39 id: 4c76633c5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：刹那 | 作成日時：2023年6月4日 10時
