シ ョ ー ケ ー ス 越 し【 うらたぬき 】

sweet16.魔法 ページ16

そんなこんなでやってきた、両国ファイナル当日。
今日は、いつもの景色とは違って見える気がする。

会場入りしたあとも、Aやリスナーの皆のことをずっと考えていて、何だか落ち着かない。

皆もう物販並んでくれてたな、とか、Aはちゃんと来てくれるかな、とか。


｢大丈夫大丈夫大丈夫｣


自分に言い聞かせるように唱えるけど、まだまだ収まらない緊張。


｢大丈夫、俺らなら大丈夫｣


不意に後ろから声を掛けてきたのは、優しい表情の３人。

⋯ほんと、この４人でいられてよかったなって思うよ。



⋯途端、ピコンと小さくなる着信音。


(⋯Aだ！)


画面に表示された"A"の文字に、思わず頬が緩む。


A渉くん!もうすぐ着くよ!⋯ていうか、ここって両国国技館だよね?どこで待ってたらいい?


Aが、近くまで来てる。

そう考えるだけで、ドクンドクンと早くなってくる鼓動。


⋯あ、待てよ、近くはcrewのみんなで溢れかえってるはずだから⋯

⋯早く裏口まで誘導しなきゃ。


うらたA!来てくれてありがとう!裏口側ってわかるかな?そこまで来て欲しいんだけど⋯

Aうん?わかった!すぐいくね〜


続けて送られてきた可愛らしいうさぎのスタンプに、ちょっとほっこりしつつ、急いで控え室を出る。


＿＿一刻でも早くAの元へ。


その思いだけを胸に、ダッシュで裏口へ向かう。


(⋯来た、ここだ)



そして見えたのは、見慣れた小さな後ろ姿＿＿。




.




｢⋯A⋯っ！｣


整わない呼吸のまま、Aに声をかける。

すると、咄嗟に振り向いて｢渉くん？｣と嬉しそうにはにかんだ彼女。


｢A⋯来てくれてありがとう｣


礼を言うと、にっこりとさらに大きく笑ったその姿がとても可愛くて。


⋯てか、待って⋯！私服可愛すぎな⋯？！


いつものお店の制服のエプロン姿を見慣れていたから、はじめて見る私服姿に思わずキュンとしてしまう。


｢⋯私服、すごくかわいいね。似合ってる｣

｢ほんと⋯！？ありがとう、この間選んだの｣


そんな楽しいやり取りも束の間、もうすぐライブの時間だ。


｢⋯A。呼んどいて何だけど、今日は見てほしいものがあるんだ｣

｢え？あ、わかった｣


きょとんとしている彼女に、心の中でもう一度、『最高のライブにする』と、そう誓った。



.




＿＿さあ、衣装に身を包んで、ちょっぴり強くなれる、優しい魔法をかけて。

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