Snow's Love (ページ4)

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惚気話は犬も食わない【兄さん】ページ4

今日は気持ち早めに帰ってみた。
ただ、なんとなく。それだけ。

いっつも待たせてるからな。Aのこと。
偶には家で待っといてやろう、って。
ただ、それだけの、ちょっとした、気紛れ。

｢ただいま、｣

冷たい玄関と廊下に寂しく俺の声が響いた。
当たり前だけど早めに帰ったものだから、俺を出迎えるスリッパの音も、ジャケットとカバンを受け取る温かい小さな手もそこにはなかった。

冷たいリビングのソファに一人沈み込む。俺の指がボタンを押すと電気ストーブがピピ、という音を出してこの部屋を機械的に温め始めた。

タバコを取り出して、テレビを付けて。
カチン、とジッポの音が響いた。

広がる煙をぼんやりと見ていると、玄関から音がした。上に上がる煙をゆっくりと視線で追うと、丁度Aが俺の顔を覗き込んできた。

｢...おかえり。｣

『ただいま！』

俺の声を聞いて口角を上げるAにつられ、俺も喉をくく、と鳴らした。
Aの顔をこちらへ寄せようとした瞬間、何かが俺の視界を覆う。

『はい、どうぞ。』

｢...お前なあ、｣

『ふふ、ハッピーバレンタイン～！』

ケタケタ可笑しそうに笑うA。
視界を明るくすれば、黒くて細長いチョコレートの箱が、俺の手の中にあった。

｢お高いやつやん。｣

『ええやろ？食べてみ？』

箱の塗装を傷つけないよう慎重にシールを剥がして箱を開いた。
キラキラと5つだけ並ぶチョコレート。
説明書を読めばそれらはどれもコーヒーやブランデーを使った甘さの控えめなチョコレートばかり。

一口サイズなものだからパクリと自身の口に放り込む。

『おいしい？』

｢...うまい。｣

『ほんま？一個ちょうだい？』

｢何でやねん、俺にくれたんやろ？｣

ニヤニヤしながら、Aは俺の手元に手を伸ばす。その手を掴んだ。

『いいやん、一個だけ...、』

そのまま、口付ける。
Aの柔らかい唇を割り、舌先を入れれば鼻にかかった声が零れた。

｢...どう？｣

『...うまいわ。』

真っ赤な顔した天使の瞳がこちらを見ていた。

...やはり早く帰って正解だったな。

_______…

作：ちぃ汰。

せっかくなのでバレンタインネタを。
皆様ハッピーバレンタインです。

今年も作者は何故か他人のバレンタインを手伝いました。何故でしょう？
ノーと言えない日本人だからです...。