【炎炎】第7の日常参 (ページ42)

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マキの圧に気圧される葵がソファーからずり落ちそうになる。
しかし、このままでは変な誤解が生じてしまう。
それだけは何としてでも、正さなければ。

『それに、若とは腐れ縁みたいなもんで。
切っても切れないというか。切らせてくれないというか…』

確かに。あの時、若は酔っていた。
何時にも増して上機嫌な愉快王であったのは事実。
だから、アレは酔った戯れだった。

でも、あの時見せた真剣な顔は

『本当に、君達が思っている様なものじゃないから』

あの日の虚ろな目を
肌に伝う高い体温を
アルコールに混じるあの人の匂いを
鮮明に脳が呼び起こす。

この感情は一体、何なのか

ぬるま湯の様に心地が良いのに
時折、ﾁｸﾁｸと肌を刺す違和感。

胸に巣くう感情が分からず
目を伏せれば、湯呑に映る自分の顔がある。
情けない意気地なしの顔だ。

波が足に押し寄せてくる。
鼓膜を波音だけが占領する。

答えを知りたくない

答えを聞きたくない

そう思う程、波は強く、水かさを増していく。
私を満たそうと、私を再び海の底へ引きずり込もうと。

『若は、好き……なんだって。私の事が。
ただ、それだけだよ…。それ以上でも以下でもない』

そんな関係と、言葉を静かに紡いだつもりだが
次に瞬間、今日一で一番高い声が響いた。

「それって………、いつから何ですか⁉」

「葵さんは、どうなんですか?」

「やっぱり、葵さんも新門大隊長の事‼」

一斉に燥ぐ3人に乾いた笑い声を返す葵。

『残念ながら、違うよ』

「「「えぇ⁉」」」

『私は、皆の言う“恋”や“愛”ってどんなモノなのか分からないの』

「「「えっ」」」

『そう言うの疎くて。だから、若が好きかどうか分からないの』

「えっ。あの、葵さんが?」

「あの、タラシで有名な葵さんが」

心底信じられないという顔をしてくる3人。
しかし、分からないのは本当だ。

勿論、この4人の中で一番経験はあるが
恋愛となると話は別だ。
兄以外の人間に対して感情が伴った事が一度もない葵。
4人の中で一番年上なのに
一番年下でも分かる様な事を分かっていないのだ。

恋愛の「れ」の字も知らない葵にガックリと項垂れた3人。
しかし、直ぐに何処からともなく
ありとあらゆる恋愛に関する雑誌をかき集めてきた。

そして、恋愛とは何か。
好きとは何かを懇切丁寧に説明してくれた。
その時の、目を血走らせた3人に恐怖を感じたのは秘密だ。