【炎炎】第7の日常 弐

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ぬるま湯のような静寂に浸る2人。
月を見上げる葵を盗み見れば、
久方ぶりの横顔が。

ここしばらく邪魔ばかり入って
ろくに見れなかった横顔をまじまじと見る。
スッと通った鼻筋に、薄紅の唇。
長い睫毛が揺れる様は、いつ見ても胸がすく。


しかし、それと同時にモヤモヤした感情に苛まれる。
この人畜有害なタラシは息をするだけで、人を魅了する。

誰これ構わず、愛想を振りまいて俺の敵を増やす。
現に森羅達は葵に良く懐いている。

アイツ等にその気がなくても
俺からすれば、目障りなのは変わらない。


コイツは俺のだ


そうしてしまえば、少しは気が楽になるのだろうか。
また、鉛のような感情が沸いてくる。
いっそ、俺のだという印を付けてやりたくなる。

その時、夜風が頬を撫でた。
肌寒い風が鉛白の髪を攫った。
月明かりに照らされる首筋が
先日の情景と重なる。



自分の下で逃げようと身を捩らせた葵。

服の触れる音の合間から、荒い息を聞かせ
見上げる視線が、混じる声が熱を感じさせた。

そして、自分で暴いた首筋が獣欲を駆り立てた。

いつもは見えない鎖骨のラインが背徳を助長させ
あけすけになった、アイツの匂いが理性を殴った。


伝う熱が思考を溶かし

放つ香りが本能を煽る。


俺を呼ぶあの声が






『若』






ハッと我に返れば、月を見ていたはずの
浅葱と視線が絡み合う。


『大丈夫?顔色悪いよ』


身体をグッと近付け、顔を覗き込んでくる。
細い指先が額から頬にかけて移動していく。
そんな気ない触り方だって事は分かっているのに
どうしても反応してしまう。

腹の底が重くなる。

自分より少し低い体温が
肌の上を滑っていく。
指先が顎先に触れようとした時、
その手を掴み取った。


『若?』

「………」

『ねぇ、本当に大丈夫?』



浅葱が心配そうに、覗き込んでくる。
自然と握る力が強くなる。
鉛白の髪がサラサラと音をたて前にやってくる。
美しい月を雲が覆い隠す。

顔に、首に掛かる髪が邪魔だと思う。
叢雲を払おうと、もう一方の手を伸ばす。
その時、あの日、畳に散らばた灰を思い出し
また、心の臓が大きく跳ねた。

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