【炎炎】第7の日常 弐

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稽古は夕暮れまで続いた。
その後も、2人にはアドバイスを出してた葵。
その甲斐あってか、
初めの頃より動きが断然よくなった2人。


『2人とも、お疲れ様』

「「…小隊長」」


息の上がった2人。
縁側に腰掛ける葵の元へ、やってくる。
ふらつく足取りが2人の疲労具合を物語る。

そして、葵の前までやって来た2人は
無言で頭を下げた。

葵は状況が読めず固まってしまう。
いや、葵だけでない。
その場にいた全員が疑問符を浮かべていた。

しかし、直ぐに1人納得した葵。


『よく頑張ったね』


と、軽く撫でる。

軍人時代、任務の合間に教官を務めていた葵。
厳しくする所は厳しく。
徹底的なまでの容赦の無さから、鬼教官と言われていた。

しかし、基本的には褒めて伸ばすタイプだ。

どんな事な些細な事でも、前進したのなら嘆賞を送った。
この世のありとあらゆる言葉で歎じてきた。
教鞭を振るえば、鬼神。口を開けば、菩薩。

その為、葵のお褒めを貰いたいが為に
地獄の訓練に耐える者もいた程だ。

ちなみに、マキや火縄もその中の1人だ。


『今日教えた事は、忘れちゃ駄目だかね』

「はい…」

『どんな時も冷静に。呼吸を意識して』


ｺｸｺｸと頷く2つの頭に
いい子だねと、笑みを溢す。
葵は、髪の間を流れる指を後頭部へ流した。
そして、グッと自分の方へ寄せる。


『明日も期待しているよ』


額と額が触れそうな距離。
傍から見れば、2人を抱きしめているように見える。
優しく後頭部を撫でる。
撫で甲斐のある頭だとしばらく楽しんでいると
変な空気になっている事に気づいた。


「それは駄目だぞ、葵………」

『えっ?あっ、あぁ…………』


兄に注意され、やらかしてしまったと思う。
完全に無意識だった。
子供相手だと、こうなってしまう。
17歳と言えど、この子達にもプライドもある。
配慮に欠けたと慌てて離れるが、反応がない。

恐る恐る下から覗き込めば、2人は虚ろだ。
どうやら、疲れのせいで頭が回っていないようだ。

葵は、ほっと胸を撫でおろしたが、
一難去ってまた一難。

3週間前の大喧嘩ですら感じなかった、圧を感じる。
冷や汗が背中を伝っていく。
左からの痛い程の視線を
兄の体格を盾にして逃げる。

見なくても分かる、鬼の形相の若。

どうしたものかと、思案していると
紺炉が2人を湯浴みに行すよう提案する。

捨てる神あれば拾う神ありだ。

葵はその流れに乗じ、鬼に捕まる前に
そそくさと詰所の奥に逃げて行った。

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