第159話 ページ15
話終わって、少し気疲れした
しばらく口を休めて、また口を開く
「これだけさ
俺とお前の話は、たったこれだけだ
それでもずっと探していた
もう一度会いたくて、何度もゴミの山を歩き回った
でもそれ以来森に行くことはなかった
あの日、偶然お前を見かけた時すぐにわかった
あの日の狼だと
運命だと思った、奇跡かと思った」
『．．．』
そばに歩み寄っても離れることなく、俺を見つめ続ける
膝を地面につけて、獣の背に腕を回した
柔らかい毛に、涼しげな匂いが鼻腔をくすぐる
数日前はなかった獣の匂いすら心地いい
やっと届いたこの存在に、縋るように身を寄せた
「ずっと、会いたかった」
クロロside終了
『．．．』
ほんのり鉄の匂いがする男に包まれ縋るように抱きしめられている
15年前
森の中
迷子の青年
キーワードを一つ一つ繋げてみても、何も思い出せない
でも、この男が自分に執着する意味はわかる気がする
「A．．．」
まるで人間が神を崇めるように
世界に希望を抱くように
少年が夢を掲げるように
家臣が王に跪くように
さも当然の如く、自分を求めた
この男が執着しているのは私ではない
私の中に流れる血なのだ
『(この人は昔からずっと、迷子のままなんだ)』
ならば、今はただ
この無力な人の子に道を指し示そう
この男が焦がれるこの血をもって
希望を、夢を与えよう
私が私であるために
愛おしい人の子を救おう
「A？」
さあ行きなさい
あなたが進むべき道はこの先だ
この先に、きっと希望が待っている．．．
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
飛行船からAを見つめるキルア達は、その光景に目を離せなかった
クロロから離れたAがゆったりと歩き出し東の空をじっと見つめる
やがて空を仰ぎ、獣は咆哮を上げた
空高く響く遠吠えは、星が輝き出した夜空に溶けここまで届く
二、三度繰り返され、まるで空気が揺れているんじゃないかと思った
それほどの迫力だった
凛とした姿
月明かりがまるでスポットライトのように獣を輝かせ、星々が共鳴するように一層輝きを増す
風が獣の声を空高く運び世界中に届けようと強く吹く
獣の青藍色の毛が揺れ、白花色の瞳が強い意志を宿し煌めく
誰もが心を奪われただろう
幼い獣は確かにこの瞬間、気高き王だった．．．＿＿＿
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作者名：SHINKAI | 作成日時：2022年9月9日 19時
