5分後に恋する文豪。-からくりじかけ- 坂口安吾 ページ5
それってとんでもなく非効率的ですよ、
と彼女は眼鏡をくぃと押し上げながら強く私に言った。
紅茶をもうひとくち飲むとほどよい甘さが喉を転がり落ちる。
砂糖を入れすぎないことがかんじんだと思う。
「だって粗末な燃料を口からとりいれてあれこれ遠回り。発電方法としては最悪ですよ」
「そんな事を私に言われても」
彼女は無表情に、感情のないような声で言った。
彼女は意見を続ける。
「発電の構造に無駄が多いのみならず、毎日三回以上の面倒な作業を繰り返してやっと動力を得る生活は、時間の浪費という観点から考えても実にコスパが悪いです。
非効率的な発電に来る日も来る日も依存し続けているので、近頃は貴方が頼りなく見えてきました。この際やめてみては?」
長いので、下の二行だけを読んでいただきたい。
彼女はこんな女性だ。
それにしても。
「え、やめるんですか」
「はい。半年ほど、燃料を口にいれる作業をやめてみましょう」
「いやそれ死んじゃいますよ、私」
当たり前の反論をしたつもりだったが、彼女は続けた。
「試してみないと分かりません」
「試してみるまでもなく私が餓死するという話です」
太宰君より厄介なボケ?だ。
「半年だけでも」
「死にます」
「何て頼りない……」
「食事をやめないと私は頼って貰えないんですか」
ハードルがかなり高い。
食堂は人間と機械でごった返していた。
混ざり会って談笑などしているためによく見ないと判別できないぐらい、私たちは平然と同僚だった。
人間が三十分くらいかけて美味しい燃料を口へ詰めている間に、アンドロイドたちはチャージパネルへ一瞬手を乗せて食事を済ます。
社会全体が哲学的ゾンビに支えられていた。
血液をからだの隅々まで届けてくれるポンプは、こころとしての意義を崩壊させ始めていた。
「しかし、呆れるほど非効率的な発電をしている自分が恥ずかしくはないのですか」
また、同じような質問を投げられた。
「ですから、そんなこと私に言われても」
「羞恥を誤魔化すために改善策まで無視するのですね」
困った。
彼女といるのは太宰君と一対一で話すより、よっぽど頭が痛いのだ。
……機械のこころはわからない。
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Deco - 中也さんの五分後最高でした!私もこんなバレンタイン過ごして見たい…… (2018年12月16日 15時) (レス) id: 9c8b9058f8 (このIDを非表示/違反報告)
乱歩君大好き人間(プロフ) - 5分後シリーズ全巻持ってます(自慢) (2018年10月10日 22時) (レス) id: 890e7ee745 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱寧 x他1人 | 作成日時:2018年8月19日 10時