1・understand ページ1
カチャカチャ
金を扱う音と、鼓膜を破りそうな程の宣伝。
おしい！なんて微塵も感じない機械音が響き渡っている。
パチンコ店、パチンコ屋。
それらは良くないものだと一般的に言われている。
まぁ、実際そうなのだが。
一攫千金なんてものじゃない。
ただのボッタクリよりもチャンスというものがあり、ボッタクリよりも非道なのがこの店だ。
基本頭のネジが一本外れた人が訪れ、悔しそうに帰っていくのが私達バイトが見る客の姿だ。
裏社会か、ただの可哀想な客か。
パチンコ屋で働く者は客に色々とイチャモンをつけられる。
なんでこんな当たらないんだ！
お前がいじったんだろっ！
実にくだらない。
そんなのただのバイトが出来ませんよって話だ。
パチンコ屋で働いている人々は、ギャンブラーなんじゃないかと謎な偏見を向けられることがあるが、全くもって逆である。
人々が闇に堕ちていくのを見て、やろうなんて思うはずがないのだ。
と、給料が良くないと印象があったパチンコ屋にしては珍しい給料、つまり高い給料のこのパチンコ屋。
大学の同僚に誘われてバイトをしているが、案外簡単でやってこれている。
今日は全体的な掃除というなんとも大雑把な仕事を、モップ一つで任された。
所得税とか言うクソみたいな制度に引っかからないように毎月八万を目安に稼ぐ。
学生にはこれぐらいが丁度いいのだ。
パチンコ台を前に如何にも真剣そうな顔で挑んでいる人を先頭に、奥までズラズラと。
最近はパチンコ屋が国の文化的に薄れてきているそうだが、この店は何時も繁盛している。
真面目そうにセッセかモップを動かせば、視界に丁寧に磨かれた革靴が目に入った。
社会人、いや恐らく全員社会人なのだ。
ダメダメサラリーマンのようにスーツを着崩している男性。
…この人も最悪な人生を進んでいくのか、、
哀れに思いつつ、止めることは営業妨害になる。
一礼し、サッサとモップを引きずれば、驚くことに引き止められた。
「おねーさん。こんにちは」
私が得意としていない接客業が始まる。
サッと顔を見れば、不健康そうな青白い肌と、褐色の悪い唇、眼鏡に死んだような瞳。
あれ、この人はもう堕ちた人か。
なんとなくそう思う。この店の常連ではなかった気がするけど。
「いらっしゃいませ、何かありましたでしょうか」
私語、感情は出さない。
私が思うに、この店限りだろう接客のルールだ。
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