恋と笑いは紙一重２【芸人短編集】

ただいま。 【博多華丸・大吉 華丸】 ページ4

結さんのリクエストです。





・


"私は遠くへ行ってしまうから。貴方を一人にしてしまうから。だから、お応えできません。"





いつかの朝。そう言って君は、僕の前から姿を消した。僕達は想い合ってるはずやったのに、君は僕が寂しくならないようにって、わざと僕の告白を受け入れへんかったんよね。




分かっとるよ。それくらい。
僕かて大人やし。



今君は、何処にいるかは分からないけど、僕の事、ちゃんと見ていてくれているかな。ほら、テレビに出て必死に場を盛り上げようとしている僕を、君はどんな目で見ているのかな。





大吉「華ちゃん？もう収録よ。はよ移動せんと遅れるばい。」


華丸「分かっとるけん。本当に心配性やな大吉先生は。」


大「はよ仕事終わらせて今日も一晩カラオケよ。」


華「勘弁して下さい……。」







大吉先生の発言に苦笑いな僕、前までならこの会話の中にAの声も混ざって、3人でワイワイ盛り上がっていたのに。




いつの間にかまたAの事を思い出していて、僕はぶるぶると頭を振る。ダメだ。今は目の前の仕事に集中せんと……。




そう思って、僕は急いで荷物を片付けて楽屋を出た。腕時計を確認すると収録開始まであと5分しかない。僕は廊下を駆け足で進んだ。







ﾄﾝｯ








背中に何かが覆いかぶさる衝撃がして、僕は少しだけ前によろけた。懐かしい匂いに、懐かしい重み。いつかAがいきなり背中に飛び乗って来た時の感触だった。





足がすくんで、その場で固まる僕の後ろから、優しい声がした。ずっとずっと聞きたかった声が。









『ただいま。』

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