恋と笑いは紙一重６【芸人短編集】

心配してる 【ジュリエッタ】 ページ46

＊ hさんのリクエストです。
※｢応援してる｣の続編です。









・


『もう私井尻の事なんて知らへん！顔も見たないから出てって!!』


井尻｢おうおう出てったらええんやろ！二度とそのツラ見せんな!!｣


『見せるかっ！』





楽屋から井尻を怒鳴り出して、私は荒い息で呼吸を整えた。額にじわりとぬるい汗が滲む。





藤本｢いや、あんな？そんっな本気の喧嘩せぇへんでも…((『聖くんは黙っといて!!』はい。｣




私はドカッとパイプ椅子に腰掛ける。今さっき、井尻と｢下の名前で呼んでほしい｣という些細な事で喧嘩をした。私は恥ずかしいからと断ったが、譲らない井尻とぶつかって今に至ったのだ。


いきなり下の名前とか、無理やろ。
彼氏としてそこんトコは分かってほしい。



………やけど、言い過ぎたとこあるし。

謝りたいけど、今更っていうね。
顔見たくない言うてまったし。





藤｢Aはもし井尻に"川原"って呼ばれて嬉しい？｣


『え？』




聖くんが話しかけてきて、私は顔を上げる。聖くんは私の目を一点に見つめて、問いかけてくる。




藤｢川原Aだったでしょ？川原呼びなんて、なんか硬っ苦しくない？井尻も彼氏としてのプライドを持って、そう呼んでほしいんだよ。｣


『うん…。』


藤｢今でも遅くないと思うけどなぁー。｣






独り言のように言うその言葉に、私は背中が押された気がした。今でも遅くない。やっぱりあの人が好きだから。





『ありがとう。』




そう言って、楽屋を飛び出した。彼を探す為に。楽屋を出る時、聖くんの｢頑張れ｣が聴こえて。安心した。






『貫太郎。』





その言葉は、貴方の背中に届いたのかな。まるでコマ送りのようにゆっくりと時間が流れて、貴方は振り向いた。今まで見たこともない、複雑な顔をして。





井｢A…。｣


『貫太郎。好き、大好き。』


井｢……俺も。｣




これは仲直りでええんよね。


やって貫太郎のその手で、
私の頭を優しく撫でてくれたんやから。

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