98:ずっと ページ48
駆け寄ってきた私に松村さんは大きく目を見開いたまま、固まっている。
「なんで、来たんですか…いや、ダメとか来てほしくなかったとかそう言うわけじゃなくて、えっと、、」
「…松村さん、」
「だって京本さんといたし、さっきも一言も喋らなかったし、俺のほう見なかったし。完全にもう嫌われたって、終わったって思ったのに、、」
少しずつ小さくなっていく松村さんの語尾。
それと同時に話終わるたびに下唇を噛む力が強くなっていくのがわかる。
そんなに噛んだら痛くなっちゃう、って手を伸ばしたいのに、でも松村さんに触れたらいけないと必死にその思いを堪える。
ギュッと握りしめた手は行き場所をなくしてスカートにぶつかると、太ももに小さな痛みだけを残した。
「…よかった、、」
体がぐい、っと揺れたかと思ったら、次の瞬間には松村さんの腕の中にいた。
伝わる体温と松村さんの匂いが優しくて、安心感を覚える。
…って、いやいや、安心感とか覚えたらダメじゃん！
松村さんには彼女がいるし、ここは私がいるべき場所じゃない。
ぐい、と松村さんの胸を押し返すと松村さんは切なそうな目をこちらに向けた。
「松村さん…彼女さん、いるじゃないですか」
「いや、それは、！」
「彼女さん置いて他の女追いかけてきたり、こうやって抱きしめたりしちゃダメですよ、」
「ちょっ、と、Aさん」
「私が彼女さんの立場だったら辛くなるから。だから、もう、会うのやめましょう」
松村さんを思うことが苦しいことだってもう分かったから、これ以上期待させないで欲しい。
だから、もう繋がりなんてなくしてしまいたい。
「Aさん、あの、話を聞いて欲しくて」
今度は抱きしめず、その代わり両肩を掴まれた。
「俺、彼女なんていないです。沙希は学生時代の元カノですが、今は何の関係もありません」
「…え、っと」
「ずっと、言葉にしないでどっちにでも取れるようなズルい態度とってたのは、俺が自信なくて、その傷つくのが怖くて…本当カッコ悪いですけど。。でも、さっきAさんが店を出て行ったあと今までのこと死ぬほど後悔しました。ちゃんと言葉にしなきゃ、ダメなんだって」
ふぅ、と小さく息を吐いた松村さんがまたこちらに視線を向ける。
その瞳には私の姿がくっきりと映っていた。
「俺、Aさんのことが好きなんです。ずっと、ずっと前から」
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
