99:気付いてしまった ページ49
肩を掴む松村さんの手にまた一段と力がこもる。
小さく震える指先にそっと自らの手を重ねて、ゆっくりと瞬きをした。
松村さんが私のことを好きだと言う事実がじんわりと体に染み込んでいく。
そりゃなんとなくそうかな、なんて自惚れかもしれないけど思っていた部分はたしかにあって。
でも明確に言葉にされたわけじゃないから、どこか不安で。
そんなところに沙希さんの存在も出てきたから、やっぱり全部私の思い上がりだったんだって思ったし。
だから、まだ嬉しさの後ろでなんとも言えぬ不安感が拭いきれず、顔を出している。
「松村さん、」
「はい？」
「私にとって、松村さんがどういう存在か、まだ答えてなかったですよね」
先程の松村さんと同じように小さく息を吐き、そして、真っ直ぐ松村さんの姿を捉える。
眉を下げて困ったような、苦しそうな、でもそれでいて少しだけ嬉しそうな松村さんの表情が瞳に映る。
「最初は、絶対やばい人だと思ってました。人が捨てたもの拾って、しかもそれを数日後に渡すような人だから」
私の言葉に松村さんは苦笑いを漏らす。
「樹、元彼のことを話して、そのあとなんでもないことを話したりしていくうちに、意外と普通の人なのかも、って」
「松村さんに手を握られたり、抱きしめられたり、キスをされたり、そういうことされるたびドキドキして、苦しくなって。松村さんのことしか考えられなくなって」
こんなに苦しくなるのは、きっと。
自分でもその気持ちの正体はわかっている。
でも、言葉にするのを躊躇ってしまうのは、私がまだその気持ちにきちんと向き合えていないからなのだと思う。
「…松村さんはズルいです」
指先に力がこもる。
その力を受けるように松村さんの指先が絡む。
「松村さんは、私のことを苦しくさせる存在です」
知りたくて、苦しい。
触れたくて、苦しい。
優しくて、苦しい。
「一緒にいたらどんどん苦しくなる。胸の奥がギュッて締め付けられて、うまく言葉が出てこなくなる」
それでも手を伸ばして、触れたいと思ってしまうのは。
そう思うのは。
「…私、松村さんのことが、」
握られたり手から伝わる熱すら苦しい。
その苦しさにまた目を逸らしてしまいたくなる。
だけど、もう逃げてはいけない。
だって、もう気付いてしまったから。自分の気持ちに。
「私も、松村さんのことが好きです」
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
