79:ニョキニョキ ページ29
「…はぁあ、」
「うわ、こりゃまた盛大なため息だ」
漫画だったらこんぐらいのサイズで描かれてるよ、なんて私のため息を聞いた慎太郎さんが手を広げて笑う。
なんとか仕事が終わり、京本に捕まりそうになったのを交わして、ようやく辿り着いた慎太郎さんの店はオアシスみたいだった。
「またなんかありました？」
「ありすぎてもう頭がパンクしてる」
「元彼さんのこと？」
この前パワーがなんとかって言ってたでしょ、って慎太郎さんがこちらを覗き込む。
隣に座ろうとする慎太郎さんに「仕事は？」なんて言えば「今、暇だから大丈夫。だから続けてどーぞ」た笑顔で言われる。
今は有り難くその言葉に甘えることにする。
「元彼のことは慎太郎さんパワーもあってまぁ良い感じで決着ついたんですけど、今度は同期のヤツですよ。避けられなくはなったんだけど、そしたら今度は、」
「今度は？もしかして告られちゃったりした？」
「ひゃ、なんでそれを、！」
「なんとなく男の勘、的な？」
やっぱりそうかーなんて慎太郎さんは一人でうんうんと頷いて何か納得した表情を浮かべている、ら
「で、困ってるんだ？」
「困っているというか、ただの同期だと思ってたのに、そんな風に突然言われてわけわからない、というか、」
「ふーん。でも今、Aちゃんフリーなわけじゃん？ならその同期と付き合ってみるのもいいんじゃん？」
「…そんな簡単な話じゃ、」
「それとももしかして他に気になる人がいるとか？」
「…えーっと、ノーコメントでいいですか？」
「その感じはいるね？？え、まじか！ね、ね！それ予想してもいい？」
「いや、え、予想って？！」
慌てる私を横目に慎太郎さんは、口端を片方だけ上げると耳元でそっと、1人の人物の名前を囁く。
その名前に固まる私を見て「どう？当たりっしょ？」なんて慎太郎さんがニンマリ笑った。
…さっきまで優しく見えてた笑顔もなんか悪魔みたいに思えてきた。
私の周りには敵しかいないのか。
っていうかなんで、バレてんの？
そんな態度に出てるのかな、私。
今までなんとなくふわふわしてたものが第三者によって言葉にされたことで、急にニョキニョキと実像を伴い成長し始める。
…意識しないようにしてたのに、もう、無理かも知れない。
誤魔化すように、ビールを一気に飲み込んだら苦い泡が喉の奥で勢いよく弾けた。
そんな私を見て慎太郎さんは何が面白いのか大きな笑い声をあげた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
