75:鈍感を射抜く ページ25
結局、私たちは一言も話さないまま、最寄り駅に到着した。
最寄り駅のホームに降り立ち、改札を出て、ようやく京本が「お前の家どっち」と声を発する。
「いや、もうここで大丈夫だから。家、すぐだし」
「あのさ、普通ここまで来て断る？」
いや、その言葉、ドラマとかでなんかホテルとかに行ってやっぱ土壇場でやめるって断ったときとかによく聞くセリフよ。
語弊がすごいよ、京本さん。
素直に送られろ、なんて京本が念を押すように言うものだからその圧に負けて、「こっちです」と一本の道を指さす。
京本はそれを確認すると、ほら行くぞ、って歩き始めるから、それをまた慌てて追いかける。
これ、送るとは名ばかりで、どっちかって言うと京本を追いかけてるに近い気がする。
家までの道を京本と2人で歩くのはなんだか変な感じだ。
松村さんのときとはまた違う緊張感というか、ソワソワというか。
「京本、」
前を歩く京本に小走りで追いつくと、隣で歩幅を合わせる。
「なに」
「あの、さっきのさ、宣戦布告ってやつなんだけど、」
「え、まだその話してんの？」
私の顔を横目でチラリ、と見た京本は呆れたようにため息をつく。
まだも何もその話全然終わってないんだけど、という言葉を必死に飲み込む。
はぁ、とまたひとつ京本が短いため息を吐き出すと、私のほうにもう一度視線を向けた。
「Aはさ、俺の好きな人の話覚えてる？」
急に何を言い出すかと思ったら、私の知りたいこととは全然違う話をし出す京本は一体何を考えているのだろう。
「え、なに急に…京本の好きな人って、あの、彼氏がいて云々ってやつでしょ」
「ん、そう。それがさ、その子、最近彼氏と別れたんだよね」
「え、そうなの。じゃあチャンスじゃん、京本」
「そ、チャンスなの、俺」
そう言うと京本は、急に歩みを止めて、私のほうをじっと見つめてくる。
その視線はあとはわかるだろ、とでも言いたげだけど、生憎ちっとも分からない。
「ちょっと待ってよ、その話とさっきの宣戦布告がどう繋がんの？」
「は？まだわかんねぇの」
京本が盛大にため息をつくと、「A、ほんと鈍感とかそういうレベルじゃないんだけど」なんて髪をぐしゃぐしゃに掻き乱した。
え、と京本のほうを見れば、京本はまた一段と真っ直ぐにこちらを見据える。
射抜くように真っ直ぐに向けられた視線が痛い。
「俺が好きなのは、お前だよ。A」
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
