春鉛 (ページ26)

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26:共犯ページ26

「これから帰るんですか」

「あぁ、そうです、帰ります」

「タクシーで？」

「そんなわけ。歩いて10分ですよ？」

「そんな距離をタクシー乗るほどセレブじゃないですよ」って言ったら松村さんが「たしかにそれは俺も乗らない」なんて笑う。

「でも乗らない怒られちゃいますよ、同僚さんに」

「黙っときますよ」

乗らないで帰ったなんて言ったらまたあぁだこうだと京本にうるさく言われるのは想像できるから、はじめから乗ったって嘘つく気だったし。

「うーわ、悪い子だ」

松村さんはそう言って笑うと「じゃあ共犯になろうかな」と私の顔を覗き込んだ。

「共犯？」

「そ、共犯」

そう言うと松村さんは家、こっちですか？ってコンビニの横の道を指す。

え、と松村さんの顔をみると「家の近くまで送っていきます」と言われた。

「…あ、ほいほいついてっちゃダメなんでしたっけ」

「ねぇ、ほんと！それ恥ずかしいからやめてください」

「はは、ごめんなさい。意地悪しちゃった」

松村さんが首に手を当てて、小さく笑う。

「松村さん反対方向だし。1人で帰れますから」

松村さんに送ってもらう義理なんてない。

それに京本を断ったのに松村さんに送ってもらったりしたら、タクシー乗らなかった以上に色々言われそうだし。

だから、大丈夫ですよ？と松村さんのほうを見
る。

松村さんは、少しだけ困った顔をして、私を見つめ返す。

「もうちょっと、Aさんと一緒にいたいんです、俺が」

だから、送らせてください、なんて。

まるで懇願するみたいにそんな顔で言うなんて。そんなのズルい。

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