君がいた夏 ページ49
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訪れる別れから、必死に目を逸らしていたあの青い夏。
死から意識を逸らしたいのに、皮肉にも自分が足を突っ込んでいる世界は死が身近にあって。そういう場面を見るとどうしても、愛おしい彼女との別れを意識せざるを得なかった。
その日は夕方まで任務だったから、待ち合わせも遅い時間帯。いつも通りスタバーに行けば、すっかり定位置になっている窓際の席にAはいた。
「よっ。授業おつかれ悟」ほとんど飲み終わっているカップと、眩しい笑顔。見た途端に安心する自分がいた。
人目も憚らず、Aを抱き締める。Aはあたたかくて、ほんのり石鹸のような匂いがする。周りの騒めきなんざ知らん。
でもAは違う。きっと俺が思い詰めているのを察して「……外出る?」とぽんぽん背中を叩いて宥めくれた。大人なAに甘えて「うん」と素直に頷く。
手を繋ぎながら店を出る。
むわ、と肌に纏わりつく熱気。忘れかけていた汗がシャツに染みる。日が沈んでも、夏の暑さは手強い。それでも手は離さない。
Aは星を見上げる。「あ、今日は星が綺麗に見えるねぇ」なんて。彼女はまた、幸せを噛み締めているのだろうか。
「A」
「んー?」
「好きだ」
「はは、ありがとう。悟くん、前より照れなくなったね」
「……るっせ」
「私も、そんな悟が好きだよ」
「そりゃどーも」
こんなに、こんなにも誰かのことで頭がいっぱいになるのは初めてで、一緒にいればいる程、抱えきれないくらい気持ちが膨らんでしまっているのに。
どうして、
「……俺が好きなら、ずっと隣にいてよ」
どうしていずれ手放さないといけないのか。
情けなく震えた声に、Aは儚く眉を下げて笑う。そして態とトーンを上げて明るく言う。
「大丈夫だよ。だって、私がいなくなったくらいで地球は滅びない」
「そーいうことじゃなくて」
「覚えてて。孤独を感じることがあってもね、人間は1人にはなれないんだよ。独りになっても、1人にはならない。だから、大丈夫」
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*
*
君がいた夏が恋しくないと言えば嘘になる。
でもね。
「先生?どったの、先生がボーッとしてんの珍しいね」
「ん?……んー、何でもないよ。それより悠仁、映画見終わったなら稽古の時間だよ」
「おっしゃ!お願いします!」
「交流会ももうすぐだからね。気張って行くよ」
「応!」
そうだね、僕は1人じゃなかったよ。
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紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - 大学生っっっっっっっ!今度は逆のナンパだ、、、、よっ!良い!!!!!! (4月11日 15時) (レス) @page50 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 面白かったです! (4月11日 13時) (レス) @page50 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - これからもずっと応援してます! (4月8日 1時) (レス) id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - だいすきです、、、、心の中で夢主ちゃんに喋りかけててほんとに大切な存在だったのがわかって泣きました、、、完結おめでとうございます!そしてすばらしい作品を創ってくださりありがとうございます!はむスターさんの書く作品全部大好きです! (4月8日 1時) (レス) @page49 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - ......じんわりくる! (4月7日 21時) (レス) @page49 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2023年9月10日 20時