85-突風みたいな恋でした ページ40
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五条悟
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突風みたいな恋だった。
何の変哲もない平凡だったはずの春の日、突然彼女は「一目惚れしました」なんて言い放ってこっちの世界に現れて。遠慮を知らず、何度も何度も俺に会いに来た。ストレートな愛情と眩しい笑顔に心をノックされ続けて。
髪や服や肌を容赦無く乱す突風のように。どんな異性にも靡かなかったはずの心が、めちゃくちゃに掻き乱された。最初は認められずに戸惑った気持ち。
しかし恋を認めてしまえば、あとはもう必死に手を伸ばすだけだった。余命のことを気にしていなくなってしまいそうになった彼女を無我夢中で繋ぎ止めた。
はじめての気持ちだった。Aと過ごす日々は、どれもはじめてな経験な気がした。ただフラッペを飲むだけでも、彼女と一緒なら新しい世界が生まれる、彼女と一緒なら視界に映る全てが生まれ変わったように美しくなる。吸い込む空気さえ澄んでいた。
長く一緒にいられないと、最初からわかっていた。覚悟して付き合った。でも、
「最後じゃない。っ最後なんて言うなよ。もっと、もっと2人で沢山の思い出つくろう。いろんなとこ行こう。Aの運転でさ、俺は助手席から偉そうにナビするから。秋は紅葉でも見るか?冬はイルミネーションもあるし、また春が来たらスタバーでも飲みながら花見してさ」
これは紛れもなく、本心だった。春、夏、秋。彼女と過ごせた季節。空白の冬。また春がきたって、今年の春以上に色鮮やかな春は2度来ない。
馬鹿、A。秋までじゃ足りねぇよ。冬も、また繰り返す春も夏も秋も、隣にいろよ。お前はほんとに自己中だな。そんなお前を好きになる物好きなんて俺くらいだっつの。
人を愛することは幸せだと知った。
同時に、人を愛することは苦しいとも知った。
仙台での任務が終わり、新幹線に乗る前にお土産を買いに来ていた。Aのことを思い浮かべながら喜久福を手に取った。そんな時だった。「……ん?」スマホが着信を告げる。Aの母親からメールだ。
____Aが亡くなった、との知らせだった。
世界から色が、音が、失われていく。この後新幹線に遅れずにきちんと乗りに行けたのは奇跡だろう。
突風みたいな恋だった。突風みたいな人だった。突然現れてこっちの心を乱しに乱して、多くの痕跡を残したまま、静かに儚く消えてしまった。
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紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - 大学生っっっっっっっ!今度は逆のナンパだ、、、、よっ!良い!!!!!! (4月11日 15時) (レス) @page50 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 面白かったです! (4月11日 13時) (レス) @page50 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - これからもずっと応援してます! (4月8日 1時) (レス) id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - だいすきです、、、、心の中で夢主ちゃんに喋りかけててほんとに大切な存在だったのがわかって泣きました、、、完結おめでとうございます!そしてすばらしい作品を創ってくださりありがとうございます!はむスターさんの書く作品全部大好きです! (4月8日 1時) (レス) @page49 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - ......じんわりくる! (4月7日 21時) (レス) @page49 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2023年9月10日 20時