80-ぎゅって抱き締めて ページ35
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「例えAが突き離したって、もう俺は諦めないよ。俺が会いに来たいから来る。そんだけ」
「私の意見は無視なの?」
「Aは俺に沢山わがまま言っただろ。だから、俺の番。側に居させろって、わがまま言わせて」
馬鹿、悟。
そんなの、わがままなんて言わないよ。
じゃあ何かって言うなら、愛と優しさとしか言いようがない。どうしようもなく繊細で、脆くて、美しい。形を持たない素敵なモノ。名前はつけられない宝物。
涙の跡が目の縁に残る。涼しげな風が乾かしてくれることを期待する。
未だ腰を曲げて目の高さを合わせてくれる彼にそっと両腕を伸ばす。今程、立てないことを恨めしく思ったことはない。
「悟、ぎゅって抱き締めて。私からは悟に届かないから」
「お安い御用」
卵を割らないように、力加減をしながら抱き締めてくれた。母と翔太といる日々が幸せじゃなかったわけではないけど、これ程の多幸感が胸に満ちていくのは悟にしかできないことだった。
涙声になりながら「もっと」と言えば、腕の力を強めてくれる。今度は笑いながら「もっと」といえば、更に強くなる。
「もっと」
「これ以上は苦しめそうで怖いっつの」
「あはは」
どんなに密着しても足りない。もっともっと、側に行きたい。隙間なんかいらない。悟の心の1番近くにいたい。離れたく、ないんだ。
未練を残さない為に一目惚れした相手に猛アタックした。でも、大きな大きな未練ができてしまった。
風が歩く度にイチョウの葉が舞い落ちる。頭や肩にどれだけ葉が乗っても、気にせず暫くの間抱き締め合っていた。
それから悟はこまめに会いに来てくれるようになった。忙しいから毎日は無理だったけど、出来る限りの時間を費やしてくれた。
折角悟が来てくれても、起きられない日もあった。そんな時は必ず手を握ってくれた。そんな悟に私は声を振り絞るんだ。「悟の声が聞きたい。何か話して」と。悟は「すっげぇ無茶振り言うじゃん」と笑いつつも、私との思い出とか最近の出来事を話してくれた。
少し元気が出た日。悟に質問された。「Aは俺と過ごしてきて、何が1番印象に残ってる?」考えなくても、答えは出た。何度も何度も夢で見た光景。
「夜景も花火も綺麗だったけど、思い出すのはやっぱり星空かな。初めて遊びに行ったラーメン屋の帰りに悟とみた空。特別に綺麗だったわけでもないのに、悟と見た感動は今でも覚えてるの」
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紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - 大学生っっっっっっっ!今度は逆のナンパだ、、、、よっ!良い!!!!!! (4月11日 15時) (レス) @page50 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 面白かったです! (4月11日 13時) (レス) @page50 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - これからもずっと応援してます! (4月8日 1時) (レス) id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - だいすきです、、、、心の中で夢主ちゃんに喋りかけててほんとに大切な存在だったのがわかって泣きました、、、完結おめでとうございます!そしてすばらしい作品を創ってくださりありがとうございます!はむスターさんの書く作品全部大好きです! (4月8日 1時) (レス) @page49 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - ......じんわりくる! (4月7日 21時) (レス) @page49 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2023年9月10日 20時