36-我慢できない ページ36
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ふわふわと揺られる感覚がなんだか心地良い。
「……A」
心地良くて、目を開けるのさえ億劫だった。ずっとここにいたいなってぼんやりしている頭で思った。
「A、着いたよ」
「着、いた……?」
「うん。ホテル、戻ってきた」
そう言われても、眠すぎて目を開けられなかった。
凪くんの言ったことを理解はしたけど、まだ彼から離れたくないと感じてしまった。あったかくて、心地良くて、安心できる彼の背中に。
「Aどうする?降りる?それともこのまま部屋まで連れて行こうか。あ、保健室のせんせーのとこの方がいいかな」
「んー……?……いや、だ」
「?手当てとか嫌なタイプ?」
「まだ、なぎくんといたい……」
何も考えずに呟いてしまった言葉は、凪くんから語彙を奪ってしまったようだった。
彼の背中から伝わってくる心音が、徐々に速くなっていく。
眠気を誘う心地良いリズムではなくなってしまったので、少しずつ意識が覚醒してくる。そして我に帰る。
あ、あれ私、
今なんかとんでもないこと口走った気が……!
カッと顔に熱が集まる感覚がした、その時。
「間宮さんっ!!」
例の失くしものをしたクラスメイトが泣きそうな顔で駆け寄ってきた。
「御影くんが先生に話してるの聞いたんだけど、怪我しちゃったって本当!?」
「あー、でもそんなに心配する程じゃないから大丈夫大丈夫」
「ごめんね、私のせいで……」
「いや私がドジなだけだから……!」
自分を責めている彼女の様子を見て、なんとか笑顔になってもらいたくて。ポケットからイヤリングを取り出し、凪くんの背中にいるまま、それをそっと差し出した。
「見つけたよ!イヤリング!」
彼女は瞠目する。みるみるうちに目に涙の膜が張られていく。イヤリングを受け取ると、両手で大切そうに握り締めた。
「ありがとう……、本当に、ありがとう……!」
「どういたしまして」
ポロポロと綺麗な涙を溢しながら、彼女は御礼を言ってくれた。
よし、これにて一件落着。
この後は先生のとこに連れて行ってもらえるのかな、と思ったけど。凪くんは私を背負ったまま走り出し、誰の目にもつかない柱の影で私を降ろした。
もう我慢できないというように、勢いよく、それでいて優しく抱き締められた。
「凪くん……?」
「ごめん、でもあんな可愛いこと言われたら、我慢なんてできない……」
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はむスター(プロフ) - 茶々さん» 初コメありがとうございます!ブーゲンビリアの花言葉、気づいてくださった方がいて嬉しいです😭 (2023年2月10日 17時) (レス) id: 311247fabe (このIDを非表示/違反報告)
茶々(プロフ) - 初コメ失礼します!ブーゲンビリアの花言葉でもうしんどいです、、。好みど直球な作品で一気読みでした! (2023年2月3日 22時) (レス) id: 2bcc5ab034 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - 莉紅-リク-さん» お待たせいたしました!続編でもお会いできること楽しみにしています!☺️ (2023年1月20日 17時) (レス) id: 311247fabe (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - おりかさん» ありがとうございます!続編でもよろしくお願いします☺︎ (2023年1月20日 17時) (レス) id: 311247fabe (このIDを非表示/違反報告)
莉紅-リク-(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!続編待ってます!! (2023年1月20日 8時) (レス) @page50 id: 24f0804e56 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2022年12月28日 17時