二兎追うものは一兎も得ず【 灰谷兄弟 】

三十八話 ページ47

　
　

　
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「 俺、これ欲しい 」




「 買えば良いじゃないですか？ 」




「 金持ってねぇもん 」




「 ………はぁ！？じゃあ何しに来たんですかッ 」






喫茶店から飛び出し、六本木の街を徘徊していると蘭くんはいきなり方向転換




とある服屋に来店した。




そこは主に男性向けの服が陳列されており




女性の服は角スペースに複数枚しかないという私にとって何しに来たんだと思わせる様なメンズ店だった




案の定、蘭くんはマネキンが着ている服に釘付け




「 お姉さん買ってよ 」




「 あの、私は君のお母さんじゃないんですよ


　買うお金が無いなら諦めて下さい 」




酷く溜息を吐いてしまう。




此処に来店してお買い物するならまだしも




購入する為の"お金"を持ち合わせてないとは





「 ……そういえばいつも手ぶらですよね 」




「 ん、そう。いつも竜胆が買ってくれるから


　俺は必要ねぇの 」




三つ編みを人差し指で遊び、私を横目で見詰める




「 ………竜胆くんの事は考えていいんですね 」




「 あ？ 」




「 い、いえ何でも 」




蘭くんはマネキンが身に付けている帽子を手にし、自分の頭に乗せた




似合ってはいるが、何処かアンバランスの感じがする




何かが









「 ………お姉さん、なに？ 」




「 え 」




いきなり蘭くんは私に首を傾げ話しかけてきた




私は蘭くんから視線を外し、手元に向けると無意識だろうか




私の手は蘭くんの三つ編みに触れていた。




「 ……あ"ッ、ご、ごめんなさい！ 」




咄嗟に手を離し、彼に謝罪する




行き場を失った手を振っていると、蘭くんは私の手首を掴み、指間に指を収めた




まるで、"恋人繋ぎ"の様に




「 あ、え……蘭くんッ 」




「 繋ぎたかったら、そう言えばイイじゃん 」




「 ……い、いや違っ……わッ"！ 」




グイッ、と手を引っ張られ、蘭くんは帽子をマネキンの頭に戻し、店内から外へ足を動かした




鼻歌交じりの蘭くん




それに振り回される私









12月25日




今日のこの日を私は"クリスマス・イブ"ではなく"地獄の日"と命名する事になった。

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