二兎追うものは一兎も得ず【 灰谷兄弟 】

三十二話 ページ39

　
　
　
「 いッ"……！ってぇ………… 」




「 い、いい加減にして下さいッ！！ 」




蘭くんは私の1発を受け身を引くと、涙目で私を見上げる




頬に熱が帯びると同時に、怒りがグツグツと煮えたぎってきて




「 私の事、そんなに好きだったなら…ッ！


　あ、あんな行為をする以前に、


　他にもっと"想い告げる"行動くらい


　あったじゃないですか…！！！


　君達がやったのは、好きでも何でも無い、


　ただの欲を発散するだけの行為ですよ"！！ 」




秋風によって私の髪は大きく揺れる




当の本人もその秋風によって三つ編みを揺らし、私の一言に目を見開いていた




何も言い返さない様子に痺れが切れそうになった時、蘭くんはやっと口を開いた。






「 抱けば好きになるだろって、ずっと思ってた 」




彼の一言に思わず眉を寄せる。




「 前の女は、そうだった。


　色目利かせた瞳で俺らを見つめ、


　その気にされれば必要以上に身体に擦り寄る。


　その次の女も、その次も、…全員 」




吐き気




何かが混み上がってくる様な感覚に私は表情を歪ませた




「 …でもお姉さんは違った。


　俺らがどんなにけしかけても


　他の女とは違ぇ反応をする。


　それが俺らにとってすげぇ楽しかった 」




今まで彼らが私にしてきた事は全て、唆していたということ？




弄ってきたのも、助けてくれたのも、キスしてきたのも全部




「 "女は女"だ。お姉さんもその気にされれば


　俺らに身を寄越してしまうと思ったのに 」




彼の何処か悲しい表情に変な気持ちになる




彼が経験していた歪みのある"愛"




紡いでいた唇を解けば、彼を強く凝視した




「 私は普通の女。


　普通の反応をして、普通の行動をする


　色気の無い、普通の女なんです。


　女は女、…蘭くんの言う通りそうかもしれない



　………でもッ！！！ 」




私は空気を多く含み、勢いのある否定を吐いた




その言葉に吃驚したのか、蘭くんは肩を揺らし私を見詰めた




「 ッ私は 上條A！！


　高卒で六本木交番勤務の現23歳の独身ッ！！


　芋女で！最強の不運持ちの女ぁッ！！ 」




「 お、お姉……ッさん？ 」




「 蘭くんッ！私はその色気満々な"女"とは違う


　上條Aという"女"です！！


　分かりましたかッ！？ 」




勢いで吐いてしまったが故に息切れを起こす




私はそこらの女とは違う




上條A、それが私なんだ。

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