【WT】少女【kn】 (ページ5)

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美術館に特設されたとある賞のための展覧会の中で、俺の描いた絵はどこか浮いて見えた。自信がなかったわけではない。

なのに、「欲望」と名付けた、人の深淵を覗いた絵、飾られたそれを前に安直な発想と言い切った初老の男性に、俺は言い返すことができなかった。情けない、そう思う。
スランプを乗り越えることができたという自信が、安直の一言で崩れ去った気がした。

俯いて背を丸める俺に、きりやんはどこか面倒くさそうに「恥ずかしいから真っ直ぐ立ってくれ」と背を叩く。
ロビー近くのソファまで歩かされると、きりやんは俺を残して自販機の方に向かってしまった。
その後ろ姿に温かいお茶が飲みたいと声をかけたのに、「夏の盛りに温かいのは売ってないだろ」と一蹴されてしまう。

ロビーにはちらほらと人がいた。今回の展覧会は新しい才能の発掘を目的とした作品展なだけあって、学生が描いた絵が中心となっている。
そのせいなのだろう、ここを訪れる層は絵を描いた学生本人とその親という組み合わせが圧倒的に多かった。

通りかかっただけで気まぐれに足を向けた、という人々も中にはいるのだろうが、見た顔の女学生が親らしき人物と歩いているのを視界に入れただけで、何故だか途端に気が滅入った。

顔を両手で抑えて俯いた俺の隣に誰かが腰を掛けた気配があった。「温かいのあった？」と反射的に声をかける。今はとにかく温かいものが摂取したい気分だった。だが、隣に座ったきりやんは何故か裏声で「･･････はい？」と怪訝な声を出す。

「温かいのがないなら他に甘いものがいいな･･････糖分が欲しい･･････」

「え、えーと、飴でもいいですか･･････？」

「味による」

「濃厚ミルク味･･････」

「貰おうかな」

それにしてもいつまで裏声で話しているのだろうか。飴を受け取るために顔をあげた瞬間、俺はそこにいるはずのきりやんの顔が女性のそれに変貌を遂げていることに言葉を失った。色素の薄い髪を複雑に結い上げ、流行の服を着た若い女性。全くの別人に話しかけていたことに気が付いたのは、それから数秒後のことだった。