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「昨日はありがとうございました。おやすみなさい」
びっくりして動きを止めると、ひどく小さい声だったが「……誰？」と彼女の声がした。
月明かりに透ける布を掴むと、カーテンはさあっと音を立てて、風間の目の前にAを現す。
大いに驚いたが、向こうはそれ以上に目を開き、「あっ」と言って手で口を押さえた。
「……風間、さん」
長い睫毛で覆われた瞳が潤み、ぽろり、ぽろりと涙が落ちていく。
彼女が、いる。
風間は か弱く震えるその声ごと抱き込んだ。
17話 ページ17
◇
夜の任務を終えた風間が向かう先は、ボーダー本部基地内の医務室だった。
遠征部隊が帰還して、早くも数日が経過したところだ。
ランク戦も防衛任務も相変わらずで、基地には変わりない日常が訪れていた。
ただ１つ、Aを除いては。
(今日は、起きているだろうか)
風間のトーク画面には、Aからの、身に覚えのない着信履歴がいつまでも残っている。
時刻は19：58。通話時間は9分。
諏訪たちと飲みをしていた頃だ。酔い潰れた自分が一体何を口走ったのか、さっぱり記憶に無いが。
トン、トンと、履歴を遡ってみる。
「昨日はありがとうございました。おやすみなさい」
「すみません、隊室に忘れ物をしました🙇後で取りに行きます」
「風間さん、太刀川がメッセージ送れないってうるさいんですが、もしかしてブロックしてます？ 」
１つ１つが話すような文調のAに対し、こちらからの返信は短いか、既読無視で終わっていた。思い返せば本人に直接答えているものも多く、果たしてこれは使い慣れているというべきか分からない。
そんなことを思いながら、するっと履歴を流してみると、風間の方からメッセージを送っているものもあった。
一言。
「風間さん、太刀川がメッセージ送れないってうるさいんですが、もしかしてブロックしてます？ 」
１つ１つが話すような文調のAに対し、こちらからの返信は短いか、既読無視で終わっていた。思い返せば本人に直接答えているものも多く、果たしてこれは使い慣れているというべきか分からない。
そんなことを思いながら、するっと履歴を流してみると、風間の方からメッセージを送っているものもあった。
一言。
「今日は誕生日と聞いたが」
相手からの返信は17分後で、「誕生日です！！！」という叫びと、パーティーのようなスタンプが送られていた。
ふ、と画面が暗くなる。
液晶に自分の顔が写ると、我ながら面白味のない顔をしていて、モヤモヤとした気持ちが渦巻くのを感じた。
医務室の前に来るのも、ここ数日の出来事とはいえ、ずっと長い間通っているような気さえしてくる。
白い取っ手を横に引いて、中へ入った。
ベッドを隠すカーテンの前には、ばらばらに並んだ丸椅子が３つ置き去りにされたままだ。
前回来たときから位置が変化しているのを見るに、Aと仲の良い隊員が代わる代わる見に来ているのだろう。
(……まだ、起きないか)
椅子の上にバッグを下ろすと、カーテンの中から布同士の擦れる音が聞こえた。
ふ、と画面が暗くなる。
液晶に自分の顔が写ると、我ながら面白味のない顔をしていて、モヤモヤとした気持ちが渦巻くのを感じた。
医務室の前に来るのも、ここ数日の出来事とはいえ、ずっと長い間通っているような気さえしてくる。
白い取っ手を横に引いて、中へ入った。
ベッドを隠すカーテンの前には、ばらばらに並んだ丸椅子が３つ置き去りにされたままだ。
前回来たときから位置が変化しているのを見るに、Aと仲の良い隊員が代わる代わる見に来ているのだろう。
(……まだ、起きないか)
椅子の上にバッグを下ろすと、カーテンの中から布同士の擦れる音が聞こえた。
びっくりして動きを止めると、ひどく小さい声だったが「……誰？」と彼女の声がした。
月明かりに透ける布を掴むと、カーテンはさあっと音を立てて、風間の目の前にAを現す。
大いに驚いたが、向こうはそれ以上に目を開き、「あっ」と言って手で口を押さえた。
「……風間、さん」
長い睫毛で覆われた瞳が潤み、ぽろり、ぽろりと涙が落ちていく。
彼女が、いる。
風間は か弱く震えるその声ごと抱き込んだ。
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作成日時：2023年6月25日 21時
