◆11話 往生所を探している ページ11
◆Cp3
しばらく経ったある日のこと。
３週間後にボーダーが遠征へ飛び立つ計画が決まった。
日ごとに増えるイレギュラー門に、大規模侵攻の存在がいつ市民の安全を脅かすか分からない状況のなか、これ以上市民の日常を壊してしまわないように、またこれ以上失われる隊員が出ないようにと─。
忍田本部長は強く会議を締め括る。
「よー、A」
忍田本部長の一番弟子で、ボーダー随一の戦闘部隊長が来る。彼もまた遠征を任された隊員の一人だ。
師匠をイメージしたマントのような黒い隊服は、見ているだけでこちらが暑くなりそうだった。
「太刀川」
「遠征は３週間後だとな。個人戦するか？ 」
「……いつ試験勉強するっていうの」
太刀川はランク戦の相手を探しているようだった。
同じ大学に通っているというのに、遠征直前まで試験期間が入っていることなど一切頭にないらしい。
スマホからスケジュールを見せて説明するとふむふむ頷いて、「まじか」と言う。
「やばいな。つか何でそんなに詳しいんだ」
「試験日くらい見るよ! 」
「俺は見ないな、見たら負けだと思っている」
「じゃあそのまま落としてください」
「待てA、取引をしよう」
太刀川は腕を伸ばしたが、Aが身をよじったことでその狙いは外れた。
「なんだよ」
「どうせ対等な取引じゃないんでしょ」
冗談っぽく口をとがらせて見せたが、力づくの攻防が始まるだけだった。
太刀川は本気で試験を通る手段を探している。
そもそも、なぜ彼に頼れる人がいないのか、一度でも太刀川に勉強を教えようと試みた者ならお分かりだろう。いくら懇切丁寧に説明しても、のれんに腕押しなのである。
しかし、本気の相手には本気で応えなければ負けてしまう。
だからAにも本気の線引きが必要なのだ。
「これからは出水くんにお願いします」
「ひどい先輩だな」
大きく距離を取ってさらに後退すると、誰かにぶつかってしまった。Aと背後にいた相手はお互いに「あっ」と声を漏らした。
「あれ、久しぶりですね、Aさん」
「……あ、嵐山くん！ごめんね」
「良いですよ。俺もよそ見してたし」
嵐山が笑うと、爽やかな風が吹き抜けるかのようだった。「忙しそうだね」と労うと、「Aさんこそ、いつもお疲れさまです」と返される。
「おー迅、待て。個人戦しようぜ」
少し離れたところで太刀川の声がした。会議後に一人だけ城戸司令に呼ばれていた人物を見つけたようだ。
「えー」と渋る迅の声も聞こえる。
「……太刀川さんに呼ばれていたんですか？ 」
「そ。そこの困った大学生にね」
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作成日時：2023年6月25日 21時
