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空が近い。
空気抵抗を受けた体は段々と落下速度を上げていく。
着地すると吊り橋は大きく上下に
揺れ軋んだ音を響かせた。
崖の下へ真っ逆さまの金狼の腕を
掴み上げ引き上げようとする。
だが身長といい体格といい…、まあこうなるわけだ。
「重すぎでしょ……」
両手で引き上げるだけで手一杯。
しかも重量に耐えられないのか橋が少し傾いている。
私が金狼を助けたのは今日中に科学王国を
滅ぼすことができないと確信したからだ。
氷月がいれば可能性はあると思ったが、数には負ける。その上捨身覚悟で硫酸でもかけてきたらたまったもんじゃない。こちらも対策をたてていかなければならないのだ。
これ以上長引けば私が本当に二重スパイなのか？、と疑われそうだし、次攻める時に対策を練られてしまう。
【撤退】
目で訴えると氷月はなるほど、というように目を細めて一歩後ろへ引いた。
そこで問題が起きる。
銀狼が橋を切ろうとしているのだ。
どうやらそばにいる村人に急かされているようで
本人は大号泣している。
小より大って？だからって巻き添えからいたくはない。
面倒くさいな、と思ったところで名案が思い浮かぶ。
特に何も制圧されていないのに勝手に敵が帰っていくなんておかしいのではないか？
奥にいる千空も私達二人の
戦闘力を失うのは惜しいだろう。
ここはWIN-WINということで、いいだろう。
最後の力を振り絞り金狼を橋の上へ放り投げる。
怪我をしている腹にあまりダメージが
いかないようにしたが、まあ、許せ。
心の中で謝罪をしながら背後の氷月に見られないように千空達に向かって合図する。ええ、日本語で何と言ったか…手話…、だったか？
＊
「ハジキ…？」
ゲンがそう呟いた。
「どうしたゲン！」
何か名案でも思いついたのか振り返り聞くとそいつはAを指差して言うのだ。
「Aちゃんが、手話で『ハジキ』って……」
瞬間、思考がフルで働く。Aが、ハジキって？
ハジキとは色々な意味で使われる言葉だ。
おはじき、あとペンキなんかを塗った時の欠陥でも使われたりする。
だがどれだって手元にねぇし使う意味がわからねぇ…。
いや、そのままの意味じゃないとしたら？
ずっと昔に親父の本棚から引っ張り出してきた一冊の小説を思い出す。ああ、なるほどな。
絡み合っていた糸がピンと張ったような感覚があった。
「ククク…やっぱりお前もそう思うか…！」
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作者名：紙崎 | 作成日時：2020年2月22日 0時
