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星が空に散った頃、
私達はお祭り騒ぎの村を木の上から眺めていた。

なまぬるい風で前髪が揺れる。

畳んでしゃがんでいた足を伸ばし、
立ち上がるとさっきの言葉を聞いて
黙っていた氷月が言った。


「…三重スパイですか」
「やだなァ、本当だって」

その目からは微量だが疑いが
かけられているようだった。

少しでも怪しい動きをしたら殺されるだろう。
ああ、恐ろしい。これだから合理的な奴は嫌いなのだ。


そこまで考えて自分も科学王国での友情(らしきもの)を裏切って司帝国についたのだから随分合理的であろうと気づく。

自分ではないか、とため息をついていると
下方の茂みにいた仲間が動いた。

もう戦るか?まだ奴らの酒が回っていないと思うが…。

異議ありだが、仕方なく錆びた短剣を握る。
それを見た氷月も肩の槍を手にした。

「へぇ」

思わず感心の声が漏れる。
隣の槍使いも顔には出ないが同様だろう。


わずかな殺気を感じたのか門番一人が前に
槍を突き出す形で構えをとったのだ。

一瞬で人数の不利に気づき橋での
一騎打ちを誘っている。

どうやら私の出番はなさそうだ。

無闇に突っ込めば剣では届かない距離から
槍での突きをくらってしまう。


舌打ちをして剣をしまった。
予備にとってある諸刃の剣でも投げればよいだろうか…

まあ、スパイなのだから好都合。
どちらにせよここで科学王国が滅んでしまえばなお良い。


「千空を殺せないと判断したら私はあっちに味方するからな…言っとくが演技でだぞ。演技」

嘘臭いが本当なので氷月に釘を刺す。
すると、分かっています。と丁寧な言葉が返ってきた。

ゲンのように話を聞き流さないのはよしとする。


そこで下方から大きな音がした。

目を凝らして見ると門番に突かれたのか、
鼻から血を流す男。

遠くに剣が落ちていることから
きっと戦いを挑んだのだろう。

「原始人の方がちゃんとしているじゃないですか」
「馬鹿」

「ス、スミマセン…氷月さん、Aさん…」

二人並んで罵倒の言葉を浴びせると
そいつは冷や汗だらだらで謝罪した。

今の男の敬語口調を聞いて分かる通り
私は戦闘経験も豊富なおかげか司帝国の中で
は意外と上位に君臨している。

仕事で戦いには慣れていたのを良く思った。
きっとただのひょろがりだったらこいつらのように雑用だったし復活さえさせてもらえなかったであろう。

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作者名:紙崎 | 作成日時:2020年2月22日 0時

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