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「吐血しているが口の中が切れただけだろう」
「ならば切り傷や打撲だけだな」
「ヨモギでも貼り付けとけばなんとかなるハズ」
ラボ内では手術室の中のように
数人の声が静かに、そして忙しく響く。
「できた。コハクどいて、傷口を見せて」
しゃがんでいたコハクを手でよけて葉と共に
すりつぶしたヨモギを傷口に塗るが
消毒液がないから油断はできない。
作業が終わると一息ついて薬品置き場にむかう。
なにやら青い液体が入った瓶を手に
取ったところで千空に話しかけられた。
「犯人の顔はみたか?」
「見てない、でも男だ」
部屋の隅で薬品を漁りながら話していると、
ゲンがなにかボソボソと話し出した。
千空は顔を近づけて同じように
小さな声で返事をしている。
なんだろうと思ったが、私は瓶を棚に戻して
クロムの側に腰を下ろした。
男達の話にはあまり興味が湧かなかったのだ。
ゲンの傷がどうとか、この薬品はどうだとかの
ざわめきとは別に私は全く違うことを思った。
司帝国に戻る時期のことだ。
もうそろそろ帰るべきだろうか…?
一度司さんに報告してから
ここに戻る方が合理的ではないか?
鉄の武器は勿論欲しいがこんなにも
遅いと心配されると思ったのだ。
ぼーっと近くで揺れる灯火を見つめて考えた。
まあ、その必要はなかったのだが。
*
「は、 失踪⁈」
コハクから聞いた。
もうゲンの姿は見当たらないらしい。
たった一夜にして…⁈
街を散策してるとか、そういうのではない。
司帝国に向かったのだという。
面倒なことになった。
あのまま嘘の報告を本当にされると私も敵扱いされる。
ゲンの嘘が絶対にバレると言いたい訳ではないが、
氷月、アイツは疑い深い。きっとバレるだろう。
あの槍で串刺しにされるのだけはいやだった。
やりやがったな。ゲン。
そこで千空との交渉を試みたのだ。
*
「_つまり、お前が司に『ゲンは嘘をついている』って言って味方のフリをして二重スパイになるってことか?」
「ええ、その方が、貴方たちも敵の動きが知れて有利じゃない?科学王国、面白そうだし」
「いいが、今は控えてほしい」
「でもどっちにしろ疑い深い司帝国の氷月ってのが来るよ、多分」
そういうと、悩みに悩んだ末、いいだろう。
と了解してくれた。
ただし、戦うときはこちらが有利になるようにしろのこと。
ふーん…ゲンの入れ知恵、
正面ではなく横に並んで会話する方が
交渉しやすいってやつ。なかなか使える。
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作者名:紙崎 | 作成日時:2020年2月22日 0時