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「吐血しているが口の中が切れただけだろう」

「ならば切り傷や打撲だけだな」

「ヨモギでも貼り付けとけばなんとかなるハズ」

ラボ内では手術室の中のように
数人の声が静かに、そして忙しく響く。

「できた。コハクどいて、傷口を見せて」

しゃがんでいたコハクを手でよけて葉と共に
すりつぶしたヨモギを傷口に塗るが
消毒液がないから油断はできない。

作業が終わると一息ついて薬品置き場にむかう。

なにやら青い液体が入った瓶を手に
取ったところで千空に話しかけられた。

「犯人の顔はみたか?」
「見てない、でも男だ」

部屋の隅で薬品を漁りながら話していると、
ゲンがなにかボソボソと話し出した。

千空は顔を近づけて同じように
小さな声で返事をしている。


なんだろうと思ったが、私は瓶を棚に戻して
クロムの側に腰を下ろした。

男達の話にはあまり興味が湧かなかったのだ。


ゲンの傷がどうとか、この薬品はどうだとかの
ざわめきとは別に私は全く違うことを思った。

司帝国に戻る時期のことだ。
もうそろそろ帰るべきだろうか…?

一度司さんに報告してから
ここに戻る方が合理的ではないか?

鉄の武器は勿論欲しいがこんなにも
遅いと心配されると思ったのだ。


ぼーっと近くで揺れる灯火を見つめて考えた。
まあ、その必要はなかったのだが。






「は、 失踪⁈」


コハクから聞いた。
もうゲンの姿は見当たらないらしい。

たった一夜にして…⁈


街を散策してるとか、そういうのではない。
司帝国に向かったのだという。

面倒なことになった。
あのまま嘘の報告を本当にされると私も敵扱いされる。

ゲンの嘘が絶対にバレると言いたい訳ではないが、
氷月、アイツは疑い深い。きっとバレるだろう。

あの槍で串刺しにされるのだけはいやだった。
やりやがったな。ゲン。


そこで千空との交渉を試みたのだ。






「_つまり、お前が司に『ゲンは嘘をついている』って言って味方のフリをして二重スパイになるってことか?」

「ええ、その方が、貴方たちも敵の動きが知れて有利じゃない?科学王国、面白そうだし」

「いいが、今は控えてほしい」

「でもどっちにしろ疑い深い司帝国の氷月ってのが来るよ、多分」


そういうと、悩みに悩んだ末、いいだろう。
と了解してくれた。

ただし、戦うときはこちらが有利になるようにしろのこと。


ふーん…ゲンの入れ知恵、
正面ではなく横に並んで会話する方が
交渉しやすいってやつ。なかなか使える。

二章 Triple spy.→←10



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作者名:紙崎 | 作成日時:2020年2月22日 0時

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