Episode191 ページ42
出水side
シュッ、ガゴン、
「……じゃ、マジでやめんだな、あいつ」
公園の、バスケットコート。輪っかの中にボールを通らせたそいつは、それだけ呟いて、地面に落ちたボールを再び拾った。午後十時。辺りは暗い。寒い。
「せっかく、太刀川さんに頼んだのにな」
おれは小さくそう言った。そいつ、米屋はおれのほうをちらりと見て、またボールを投げた。あのときおれは太刀川隊さんならAを太刀川隊に引き止めることができると思って、というかそれを期待して頼んだのだ。それなのに結局、Aは太刀川隊を辞めてしまうらしい。あんなにそれを恐れていたはずなのに、太刀川さんでさえそれを止められなかった……いや、止めなかったという事実があるだけで、Aがいなくなることに以前ほどの抵抗感は感じなくなっていた。
『私は、まだボーダーとして死にたくない、これで終わりにしたくない。だから、前を向くために、ーー太刀川隊をやめます』
昼間、おれは基地の屋上で、太刀川さんとAが話してるところを見た。太刀川さんが隊室を出ていったあと、廊下でばったり迅さんに会ったからである。
『あれ、迅さん』
『おー出水。屋上には行かなくていいのか？』
『屋上？』
『……きっと、お前の未来に関わることだと思うよ』
それで屋上へ行ってみたら、あのセリフが待ち受けていた。何だよ、前向くために辞めるって。そんなこと言われたら、おれも太刀川さんも京介も柚宇さんも、誰もお前のことを引き止められない。
おれは二人には話しかけずにそのまま屋上を去った。
「弾バカくんはいいの、それで」
「誰が弾バカだ」
言い返した後、言葉が詰まった。いいのかと言われればよくはない。本当はずっとAが楽しそうに戦うその様子を隣で見ていたかったけれど、太刀川隊で有り続けることでAがその姿から遠ざかっていくのなら、おれは黙って見送るだけだ。
「……あいつが決めたことなら、口出しできねー」
―――米屋side―――
亜桜は結局太刀川隊を辞めるらしく、でも前とは違って弾バカはどこかそれを受け入れているようだった。
「どーすんの、これから」
「どうもしねーよ。おれは今まで通り、太刀川隊の出水公平でいるだけだ」
オレはボールを手に取って、弾バカを見つめた。その顔には、まだ葛藤が残っているように見える。自分の気持ちよりも、あいつの気持ちを優先してやるこいつの優しさ。
「これからも一位守り続けろよ、太刀川隊」
「あたりめーだろ」
亜桜がいなくなっても、お前らは壊れないでいて欲しいから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 483人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
