Episode135 ページ36
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ブレード同士が擦れあったまま、動けなかった。目の前の光景はどうか嘘であってほしくて。
『ずっと、なんてないのに、何でみんなそんなこと言うんだろ』
それがリピートして同時に私の力が緩んで、自分の弧月が相手に押されて首元に近づいた。はっと我に返ってそこで押し返す。大勢が仰向けなのもあってうまく腕に力が入らない。そいつの体重が乗った刃がどんどんこちらに押し込まれてきて、それはその物理的な質量よりも遥かに重く、私にのしかかった。
「なん、で」
ザァアア……
「人違い、だよね。あ、それとも連れ去られて、こんなことさせられてるの?」
「はぁ?」
「だったら助けるよ、私、私は奈那に……」
今、私を殺そうとしている人間は、かつて私の全てだった親友、赤橋奈那の顔をしていた。背丈も服装も表情も、あの頃とは全然違っていて。だけどその目は、その声は。間違いなく、間違えるはずもなく赤橋奈那だった。
「赤橋奈那なんて、最初からいないけど」
そいつが口を開いて、私の瞼がぴく、と動いた。
「私はネイバー。本当の名前はフィデス」
やめてくれ、と願ってもそいつは笑ったまま。フィデス?誰だそれ、知らない。私の親友は、私が探しに来たのは、助けたかったのは、また会いたかったのは、そんな奴とは違う。心地良かったあいつの声が、今では“雑音”に訊こえる。世界の色がなくなっていく。彩度を欠いた、薄暗い世界へと落ちていく。
「いないんだよ、お前の親友なんて最初から」
ザアザア、と振り続ける雨の音。自分の顔が歪んでいくのが分かった。体の力も緩んだ。自分のブレードが首に触れた。ここで首を切り落とされたら、換装が解ける。換装が溶けたら、生身の体にこいつのブレードが突き刺さって、きっとそこで私は死ぬ。……いや、
もう、それでもいいや。
「!」
ガギィィン
「降りてきたの?」
それはまた、元親友の声。攻撃を仕掛けられて、交わすために私から退いたのだ。
「何やってんだ、A」
「太刀川、さん」
その人は弧月を鞘にしまいながら私にそう言った。雨で濡れた前髪のせいで、表情は見えない。
「お前は上行け、こいつは俺が殺る」
「へぇ?」
「!待って、」
太刀川さんに反射的に言葉を投げてしまい、そこで私は口篭ってしまった。太刀川さんにとって元親友は私を襲ったネイバーでしかないので、彼は不思議そうに私を見ているだけだ。けれど、このまま太刀川さんと奈那を残してこの場から離れることはできない。
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亜桜(プロフ) - 緋色さん» ありがとうございます(;▽;)更新頑張ります! (2019年1月21日 19時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
緋色 - 続きが気になりすぎる!!!面白すぎてヤバイです!!更新頑張ってください!応援してます!!!! (2019年1月20日 21時) (レス) id: 076cc2dab4 (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - twice MOMO,loveさん» 長編にも関わらず全て読んでいただけて本当に嬉しいです(;ω;) できる限り定期的に更新していきたいと思います! (2018年12月11日 11時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
twice MOMO,love - とても面白いですっ! いっきにすべてのお話し読みおわってしまいましたッ! これからも頑張ってください!( v^-゜)♪更新お待ちしています! 長文ひつれいしました (2018年12月10日 17時) (レス) id: cfa0ae033f (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - アヤカさん» ありがとうございます!!( ;∀;)がんばります!! (2018年11月25日 12時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜桜 | 作成日時:2018年10月8日 12時