Episode128 ページ29
迅side
何回乗ったって慣れるものではないな、と思う遠征艇。特別広くもなく狭くもない、何の変哲もない船。
「珍しく静かだな」
「東さん」
奥から東さんが歩いてきて、おれの隣まで来て止まった。
「……そんなに危険なのか、今回の遠征は」
「ーーいや、その可能性が高いってだけです」
今回の遠征に関してはいくつもの未来が見えるが、一つだけ、どの未来になっても高確率で起こる未来があった。それは、Aちゃんのこと。ずっと前から視えいたが、おれは彼女をここに連れてきた。……だって、おれは冷酷な人間だから。
『城戸さん、ちょっと話があって』
『遠征のことなんだけど』
少し前、おれは城戸さんに見えていた未来について部分的に話した。他の誰も会議室にいない日を狙って。遠征選抜メンバーを決めたあとだったので、選抜は公平に行ったのだと思う。
『多分今回の遠征、ボーダーは何かしらダメージを負うことになると思う』
どういうことだ、と城戸さんは言って、おれはその事情を話した。こちらのトリガーが盗まれたり、隊員のトラウマになってしまったり、最悪、死人が出たり。今まで見た未来の中でも上位に入るほど、分岐が激しい未来だった。
『不確定な要素が多いけど、一つだけ言えるのは、』
そんな中でも、失われる笑顔が一つだけ決まっている。
『亜桜Aちゃんが、何らかの被害に遭うということです』
『亜桜が?』
残念だが、Aちゃんが何らかのダメージを負うことは決定事項である。規模の大きさは予測不可能だが、彼女の肉体あるいは精神に、何らかの不幸が降りかかる。おれたちが動かせるのは、被害を彼女一人に抑えるか、それとも他の隊員にも及んでしまうかーーそれだけだ。一体どんな薄暗い要素が彼女を掴んで離さないのかはおれの予知では読むことができない。
『では、遠征に連れて行かないほうが良いのか』
『いや、この遠征に彼女は必要です』
『ーーでは、亜桜は最悪の場合切り捨てると?』
『……』
おれは、個人よりも組織を見ている人間なのだと自分で思う。それが、大衆を救う結果になると信じて。けれどそれは、言い換えれば少数を切り捨てていることだ。おれはこれまでもたくさんの『少数』を犠牲に、それでもこれが正しいのだと言い聞かせてきた。今回も、同じである。
「……迅、先に言っておくが」
城戸さんとの会話を思い出していると、東さんが発した声を訊いてはっと我に返る。
「何が起こっても、お前の責任じゃないからな」
おれは目を見開いた。そして敵わないなと、乾いた笑いをこぼした。
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亜桜(プロフ) - 緋色さん» ありがとうございます(;▽;)更新頑張ります! (2019年1月21日 19時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
緋色 - 続きが気になりすぎる!!!面白すぎてヤバイです!!更新頑張ってください!応援してます!!!! (2019年1月20日 21時) (レス) id: 076cc2dab4 (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - twice MOMO,loveさん» 長編にも関わらず全て読んでいただけて本当に嬉しいです(;ω;) できる限り定期的に更新していきたいと思います! (2018年12月11日 11時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
twice MOMO,love - とても面白いですっ! いっきにすべてのお話し読みおわってしまいましたッ! これからも頑張ってください!( v^-゜)♪更新お待ちしています! 長文ひつれいしました (2018年12月10日 17時) (レス) id: cfa0ae033f (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - アヤカさん» ありがとうございます!!( ;∀;)がんばります!! (2018年11月25日 12時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜桜 | 作成日時:2018年10月8日 12時