Episode046 ページ47
Aside
カチ、カチ、とオレンジの明かりが順番に数字を照らしていくのを、私はぼーっと眺めていた。
「何本勝負？」
「十」
ランク戦ブースへ向かうエレベーターの中。私は米屋と二人で、その扉が開くのを待った。腰に下がった弧月の鞘を撫でると、あの負けた試合のことを思い出した。
「降りるぞ」
「うん」
最近ずっと私が落ち込んでいたりイライラしていたりすることに気付いていても、米屋は何も言ってこなかった。
「あれ、しゅーじ」
ランク戦ブースに着くと、米屋が黒髪の男の子にそう声をかけた。私は初めて見たけど、しゅうじ……ってこの間米屋が話してた三輪秀次って人か。
「お前もランク戦？」
「早くポイントを溜めたいからな」
米屋が私の知らない人と話しているのは、何だか新鮮だった。私が太刀川隊として過ごしている間に、米屋は米屋でボーダーとしての生活を送っていたのだということを改めて認識した瞬間だった。
「あ。亜桜、こいつが前言ってた三輪秀次。でしゅーじ、こいつが前話した亜桜A」
前話した、というワードに驚いた。まさか自分が三輪を米屋伝いに知っているのと同じように、三輪も米屋伝いに私の話を訊いていたとは。そして三輪の顔を見るとぱちっと目が合って、瞬間私はある光景を思い出した。
『姉さん！』
大規模侵攻のあの雨の中、女の人を抱きかかえて辛そうな表情を浮かべる黒髪の少年。私がサイドエフェクトで視てしまったものだ。あれは間違いなく三輪だ、と分かってしまった。
「太刀川隊の亜桜だな。俺は三輪秀次だ」
そう三輪が言っているのを頭の片隅で訊きながら、私はその場に固まる。ボーダーって、やはり重たい場所なのだな。誰かの命のために、戦う場所なのだから。
「亜桜？」
「っあ、ごめん、私は亜桜A、よろしくね」
いつものように上手く作れなくて、ぎこちない笑顔になってしまった。
「なあしゅーじ、あとでお前も戦ってくれよ」
「生憎お前の遊びに付き合ってる暇はない」
米屋が「ちぇっ」と口を尖らせて、三輪は向こうへ歩いて言ってしまった。米屋から訊いてた通り堅実そうな人だ。互角の相手より確実に勝てる相手と戦ってポイントを稼ぎたいタイプなのだろうか。
「ランク戦も付き合ってくれないの？」
「いーや？あいつオールラウンダー目指しててさ。今はポイント優先だから」
オールラウンダーって確か、近距離と中距離のトリガーで六千ポイントずつ溜めると認められるポジションだっけ。私は「オールラウンダーか……」と心の中で呟いて、米屋と共に各自個室へ足を運んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 523人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
亜桜(プロフ) - 百瀬さん» ご指摘ありがとうございます！固定夢主の名前を変換しそこねていたようで……大変失礼しました;;気付いたところから修正していきます。 (2023年1月5日 0時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
百瀬 - 途中途中で名前が"紗雪"になってますよ〜！ (2023年1月3日 12時) (レス) @page47 id: 6aa4d6dc2c (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - 柊那さん» ありがとうございます(´;ω;`)修正多めのマイペース更新で申し訳ないですが頑張ります！！ (2018年5月18日 13時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
柊那 - 面白かったです！続き楽しみてしてます。更新頑張ってください( -`ω-)b (2018年5月18日 2時) (レス) id: 6886eff87c (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - 藤見日和さん» わざわざ有り難うございます！！わがままな作者で申し訳ないです（汗）必ず戻ってきます…！ (2016年11月24日 20時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：亜桜 | 作成日時：2015年8月5日 16時
