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こっそり埋めてね ページ49

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「口の中切れちゃってるねー、痛いでしょ」
「いたくないです」
「強がるな」

奈良坂に怒られる彼女を見て月見は苦笑いを浮かべた。
彼女に掴みかかった女性は記憶処置を行うらしい。行わなくても変わらないのではと思った彼女だったが、やらないよりもやった方がいいだろうと上層部が決めたのだ。口にする必要は無いと大人しく医務室で処置を受ける。


「小鍛冶どうだ?」
「あずまさん、」
「運が悪かったなぁ。どれ、見せてみろ」
「すみません途中で抜けて」
「大丈夫だよ。今日のシフトは人多かったしもう交代の時間近かったからな……それより、結構強くやられたな。痛かっただろ」
「いたくないです」
「こら」

東は彼女の頬を見ながら先程の月見同様同じ質問をするも、彼女は痛くないの一点張りだ。
奈良坂は呆れたように叱るも、東はハハッと笑うだけであった。


「偉いぞ小鍛冶。言い返さないで我慢できたな」
「別にこれくらい、」
「嫌なこと沢山言われただろう。太刀川に連絡しといたから後で来てくれ」「小鍛冶!」「ほらすぐ来た」

自動の扉が開き切る前から大きな声を上げ彼女の名前を呼んだ太刀川は、開き掛けの扉の隙間を縫って入室した。頬に湿布を貼られた彼女を見て急いで駆け寄る太刀川の後ろには、うるさいと顔を顰める二宮がいる。

「おまえぶたれたんだってな」
「はい」
「他に痛いことされたか?」
「されてないです」
「めっちゃ嫌なこと言われたろ」
「……」
「逃げるな、言え」

視線を逸らした彼女の顔を鷲掴みして太刀川は迫った。
月見から「太刀川くん!」と言われ太刀川ははっとして手を離す。二宮からはふざけてるのかと罵声が飛ぶも、太刀川の耳には届いていない。東と奈良坂は事の成り行きを見守るばかりだ。

そして次の瞬間には彼女の目からポロポロと涙が出てきた。

「お、おい」
「たちかわ゙さんが、いだいのに゙、づがむから゙」
「あああ!わりぃ許してくれ、な?ごめんな小鍛冶」

「……さっき痛くないって言ってただろう」
「奈良坂、内緒」

「太刀川くん、なんで泣かせるの」
「そんなつもりじゃなかったんだって」
「おまえ馬鹿なのか?」
「二宮もそう怒るなよ〜」


折角我慢しておこうとしていたのに、と彼女は胸中で叫ぶ。こっそり埋めておいて、あとでこっそり泣こうと思ってたのに、と。

溢れ出した涙は、ふだれた痛みでも、嫌なこと言われたからでもなく、周りからの優しさが沁みたからだ。




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作者名:40 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年2月26日 0時

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