そうして舟を漕ぐ ページ27
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「小鍛冶」
「はい」
「コイツはおれが相手する。おまえは新型やってくれ」
「でも、」
「先輩命令、な?」
彼女は出水の言葉を信じ、大人しく引き下がる。しばらくはハイレインの出す魚や鳥を狙撃手たちと連携し撃ち落としていた出水だったが、出水の撃ち落としたトリオンを自己治癒に使ったハイレインに、出水はベイルアウトを余儀なくされた。
「無駄骨だったが健闘したな、玄界の射手」
彼女は出水のベイルアウトに焦っていた。出水がベイルアウトするくらいならやはり自分が落ちた方が良かったのではないか。自分よりも優秀で頭の回る出水のベイルアウトは、彼女の余裕を容赦なく剥いでいた。そんな彼女の心理状態を知っていたか、出水はすぐに戦場に無線を繋げる。
『小鍛冶、大丈夫だ。おまえはちゃんと戦える。まだここで死ぬなよ』
「ッは、い……」
『ったくそんなことだろーと思ったよ。わりい京介!しとめそこねた!』
「いや、おかげでかなり時間が稼げました」
烏丸は玉狛支部の宇佐美に無線を繋げ、三雲たちの様子を聞くと玉狛専用トリガーを起動させた。
「俺が3分稼ぎます」
『ガイスト起動
両足と右手に見たことの無い装甲をした烏丸が、ハイレインと対峙する。彼女は新たに攻めてくる新型を捌きながらその様子に見入った。米屋も面白そうに笑っている。
『Aは俺がベイルアウトした後、修たちのとこに行かせないよう時間稼ぎしてくれ』
「わかった。それまで周りの新型の相手は私がする」
『助かる』
烏丸の専用トリガーは、トリオン体の安定性をあえて崩して武器や手足にトリオンを流し込んで強化するものだった。 まだ試作品なこともあり、使用する制限時間約3分間。烏丸はその3分間で自分の後輩たちを逃がすための足止めに出たのだ。
しかし、嫌な鈍い音がして例の黒いゲートが現れる。
「ハイレイン隊長、金の雛鳥が間もなく到着します」
「そうか。ではそちらへ向かおう。
「……待て!」
そこで烏丸は気づいた。足止めしてたのはこちら側ではなく、あくまで相手側だったことに。悔しさで顔を歪める烏丸に追い打ちをかけるように、烏丸の背後をミラのトリガーとハイレインのトリガーが攻めた。
烏丸がベイルアウトする。
彼女は目を見開き、瞬時に無線を繋いだ。
「ッ柚宇さん三雲くんのとこまで最短ルートだして!!」
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作者名:40 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月3日 0時